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一億総自営業者社会、、、それがすべて一人会社であることが究極の理想。。。

■社長は会社を「大きく」するな!

山本憲明 [税理士]

会社は「規模」ではなく、
「稼ぐ力」で見ろ!

日本には昔から「会社は大きくするもの」「目指せ!右肩上がり経営」という考え方があります。しかし、この100年に一度といわれる不況の中、安易な「拡大・成長戦略」では、会社は疲弊し、経営者はもちろん、働く社員も幸福感を得られません。そもそも、「大きな会社=儲かる会社=いい会社」なのでしょうか?税理士の視点から、この問題を解説していきます。

会社の稼ぐ力は、
「1人当たりの粗利」で見る!

 起業志望者や、起業したての経営者から見て、「うらやましい」と思う存在があります。それは、「大きな会社」です。

 私も何年か前までは、大きな会社を見るにつけ、「いいなぁ。うらやましい」と思っていました。しかし今、そんな気持ちはなくなりました。

 その理由は、「大きくて、勢いのある会社であっても、実はそれほど儲かっていないことが多い」からです。もちろん大きな会社でも、「稼ぐ力」を持っており、本当に儲かっている会社もあります。しかし、そんな会社は多くありません。

 では、「会社の稼ぐ力」とは、どのように判断すればいいのでしょうか?
本当に儲かっているかどうかを見分けるために、私はある指標を使っています。

 それは、「(従業員)1人当たりの粗利」です。

 粗利という言葉は、みなさん聞いたことがあるかと思います。「売上」から、「原価」(売上を上げるために必ずかかる費用)を引いたものですね。※粗利のことを、会計用語では「売上総利益」といいます。

 例えば、コンビニエンスストアなどの小売業であれば、「売上高-仕入れ金額」が粗利になります。

会社で稼いだお金(粗利)を、
いったい何人で生み出しているか

粗利を従業員の数で割ったもの、それが「1人当たりの粗利」です。

つまりこの数値は、「会社で稼いだお金(粗利)を、いったい何人で生み出しているか」を表すものであり、会社の本当の力を探るバロメーターなのです。

「1人当たりの粗利」は、株式を公開している上場企業であれば、私たちでも計算することができます。その方法をお伝えします。

 まずは、「○○(会社名) 有価証券報告書」とグーグルやヤフーなどの検索エンジンで調べてみて下さい。

 有価証券報告書を開くことができたら、「従業数の状況」という表を探して下さい。そこに従業員数が載っています。従業員数の算定については、実質的な労働力を考慮して、「従業員数+平均臨時雇用者数×0.5」で算出します。

 売上総利益(粗利)については、「連結財務諸表等」の中に載っていますので、数字を抜き出してみて下さい。

 売上総利益を、従業員数で割ると出てくるのが、「1人当たりの粗利」です。

もはや「大企業=儲かる会社」では
なくなってしまった

 1人当たりの粗利は、もちろん企業によってさまざまです。諸説ありますが、1つの目安として、かつては非上場企業の平均で1000万円、上場企業の平均で1500万円といわれていました。

 上場の有無にかかわらず、5000万円近い数字を上げている会社もありますが、多くは1000万円前後に落ち着きます。その一方で、1000万円を大きく下まわっている会社もあります。

「そんなこといっても、大企業は儲けているんじゃないの?」
こうした疑問をお持ちになられる方も多いかと思います。しかし、誰もが知っている大企業でも、今、厳しい状況に追い込まれているのです。

 次の数字は、日本を代表する電機メーカーの2011年度の有価証券報告書から算出した1人当たりの粗利です。

○パナソニック 1981701(百万円)÷330767(人)=5.991=約599万円
○シャープ 412008(百万円)÷56756(人)=7.259=約726万円
○NEC 907916(百万円)÷109102(人)=8.321=約832万円

 いかがでしょうか。日本を代表する企業であっても、「1人当たりの粗利」という観点からみると、決して「儲かっている」わけではないのです。

なぜ「1人当たりの粗利」が
大切なのか?

「1人当たりの粗利」は、社員の給与や、各種経費の源です。少ない場合は、当然給与も少なくなります。

 1人当たりの粗利が1000万円だとすると、そこから「給与と経費と利益」を出さなければなりません。そうすると、給与の限界も決まってきます。

 いわゆる大企業は、高度経済成長時の恩恵を受け、大きな利益を得ました。この「貯金」のおかげで、給与水準等も含めて、大企業は何とか存続しています。ただ、それにも陰りが見えてきました。

 現在、シャープは5000人の人員削減を計画中で、パナソニックも2011年度、約3万6000人の人員削減を行いました。大企業で行われているこうしたリストラは、企業としての体力の無さを如実に表しています。

 電機業界のみならず、巨大企業で潰れるわけがないと思われていたJALも、経営破たんしました。

 では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

次回以降の連載では、「大きな会社」が抱える弱点、また、「小さくても儲かる会社」をいかにして作っていくか、という話をしていきたいと思います。

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■続き

大きな会社は「儲からない」。
その理由は?

前回の連載では、「1人当たりの粗利という観点から見ると、大きな会社は決して儲かっているわけではなく、厳しい状況にある」というお話をしました。では、なぜそんなことが起こるのでしょうか。「大きな会社」ならではの、構造的な問題点について、税理士の視点から解説していきます。

「管理の手間」で、
粗利は減ってしまう!

 なぜ、大きな会社では1人当たりの粗利が少なくなるのでしょうか。その最大の原因は、「大きな会社では、内向きの力が必要になる」からです。

 社員が多いと、管理の手間が増大します。社長1人の会社と、社員が20人いる会社を比べてみましょう。

 一般的には、社員が20人でも「かなり小さな会社」といわれますが、1人の場合と比べると、管理のためにやるべきことが圧倒的に増えます。具体的には、

・給与計算、給与の支払い(振込手続きなど)
・社会保険、雇用保険などの加入手続き、年度更新などの手続き
・年末調整、税金(源泉税)の支払い、管理
・勤怠の管理(有給休暇の管理等も含む)
・社員との面談、給与、昇格の評価など
・事務所選び、引っ越し、レイアウト変更等(社員が増えるたびに)
・面接、入社時の手続き、退職時の手続き
・個人情報の管理、社員からの情報漏えいの管理

 といったことをしなければいけません。

総務・経理を雇うほど、
「1人当たりの粗利」は減る!

 これだけの事務をこなすためには、最低でも1人は、各種処理や手続きなどを専門にこなす「総務・経理」といった人材が必要になります。

 ここで再度確認ですが、1人当たりの粗利というのは、売上から原価を引いた粗利を、社員数で割ったものです。

 このような総務・経理といった間接部門の社員が増えると、その方は売上に直接関係してきませんので、1人当たりの粗利は減ってしまいます。

「会社は俺が売上を上げて支えている。お前は何もしていない」

 私が大企業の経理部門で働いていたときのことです。よく営業の先輩のEさん(いい人ですが口の悪い人でした)に冗談で言われたものです。冗談だとすぐわかる言葉でしたので、傷ついたりすることはなかったのですが、もし本気でそのようなことを言われたら、普通は傷ついてしまうでしょう。

 このように、大きな会社では管理の手間が増大し、その結果として1人当たりの粗利が減ってしまうことを忘れてはなりません。

会社を大きくすると、
「経費」がどんどん増えていく!

 会社を1人で経営しているときは、経費はほとんどかかりません。通信費、交通費が主な経費で、それ以外は心がけ次第でいくらでも減らせます。そのため、売上があまりなくても、お金はそれほど減りません。

 しかし、規模の拡大を狙って、いったん人を増やしてしまうと、経費がどんどん増えていきます。

 まず人を雇った瞬間、事務所が必要になります。自分1人でやっているときは、大した問題はないのですが、人を雇えば、そうも言っていられません。その人の働く場所を確保する必要があるからです。

 事務所を借りるときには、多額の保証金や敷金が必要になります。私は、普通のアパートを借りて、郊外に事務所を構えています。ですから礼金1カ月、敷金2カ月程度で収まったのですが、普通に事務所として借りようと思えば、そうもいきません。

 そもそも、事務所を探して契約しようとすると、「わりと広めで家賃が高い物件」を選ばざるを得ない形になります。さらに保証金として、家賃の10カ月分が必要、などという物件も珍しくありません。

 このように、「事務所を借りる」だけで、いろいろと出費がかさんでしまうため、資金があまりない状態では、借入をしなければなりません。

一度会社を大きくすると、
もう止められない!

 借入をするとなると、金利負担がかかってきます。その金利を払うため、さらに売上を増やす必要があります。

 売上を増やすためには人員が必要で、その人員が増えると、また事務所を拡張・移転しなければなりません。そうするとまた保証金がかかって、というように、とにかく経費がスパイラル状に増えていくわけです。もちろん、人件費も増えていきます。

 給料はもちろん、社員の社会保険料の半分を、雇い主が負担しなければなりません。実はこれが非常に大きな金額になり、大変です。

 一度規模を拡大してしまうと、経費がどんどん増え、それをダウンサイジングしていくのは本当に大変です。ある程度の規模で維持していくか、無限に拡大していくか、この2つの選択を迫られることになります。

 このように、「会社を大きくする」ことで、経費がどんどん増えていくわけです。経費が増えても、売上がそれ以上に上がらなければ、赤字になり、経営も苦しくなります。

「固定費」が、
会社を倒産させる

 人件費や家賃といった経費は、「固定費」と呼ばれるもので、毎月固定的にかかってくる経費です。

 したがって、何かのはずみで売上が下がってしまったとき、固定費をまかなえなくなり、その果てには倒産、といったケースを何社も見てきました。

 会社を大きくしていくのはメリットしかないと思いがちですが、こういった側面があることを忘れてはいけません。

「管理の手間が増大する」「経費(固定費)が増える」。大きな会社ほど、1人当たりの粗利が減ってしまうのは、こうした問題を抱えているからです。

 無論、大きな会社であっても、「会社が儲かる→人を雇う→事業拡大→さらに儲かる」というループにのれれば、それにこしたことはありません。

 ただ、今後、少子高齢化になり、労働者人口と消費者人口と減り続ける日本にあって、「会社を大きくし続ける」のは非常に難しいのではないかと思っております。

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Posted by nob : 2012年10月17日 09:00