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成長から成熟へのこの新たな時代に求められるのは経験則ではなく創造性、、、そしてそれを生み出すのは体制や組織への依存従属からの脱却、、、方法論ではなく根本的方向性の問題。。

■「白川総裁は誠実だったが、国民を苦しめた」
浜田宏一 イェール大学名誉教授独占インタビュー
山田 徹也、井下 健悟

1月22日の日本銀行の決定は80点――。安倍晋三内閣で内閣官房参与に就任し、金融分野におけるブレーンである浜田宏一イェール大学名誉教授。意外にも浜田氏の点数評価は高かった。だが、「『悪い日銀』が『良い日銀』に変わったとは思えない」と手厳しい批判も。「今の日銀法には欠陥がある」と、法改正の必要性を強調した。さらに、注目が集まる次期日銀総裁人事について、浜田氏が考える有力候補は誰か。(聞き手:山田徹也、井下健悟)

――日本銀行は1月22日、政府との連携強化を目的とした共同声明と、自由民主党が政権公約に掲げた「物価上昇率の目標2%」を取り入れた金融緩和策を発表しました。どう評価されていますか。

これまで日本銀行はいろんな理由をつけてやらないということが続いてきた。共同声明で合意を得られたのは評価すべきだ。物価目標2%は国際的に見ても標準的なインフレ目標で、これも進歩だ。

日銀の方向転換として第1の驚きは、昨年2月14日の“バレンタイン緩和”(「物価上昇率は当面1%をメド」とする金融緩和の推進)と呼ばれる動きだった。当初、株価が反応したものの、結局、日銀が「デフレ脱却に向けた金融政策をするようには思えない」と見られ、長続きしなかった。

一方、アベノミクスでは、まだ何も政策をやっていないうちに、「デフレを脱却する政権ができるのだろう」と国民が思っただけで、円安や株高になっている。これは岩田規久男(学習院大学教授)さんや高橋洋一(嘉悦大学教授)さんのいう、「期待」の効果が金融政策には重要だということを実証している。

現在の日銀法には欠陥、改正すべき

――今回の金融政策に点数をつけると?

点数にはあまり客観性がないが、80点ということかもしれない。ただ、現在の日銀法には「(日銀の)自主性は尊重されなければならない」とあり、金融緩和をしたくなければ断れる。今後も必要な金融政策が今後も続けられるのかといえば、制度的な保証はない。

もっと言えば、日銀法改正の脅しがあったから日銀は従った。「日銀は”いい子”になったんだから、もういいだろう」というのが世間の評価かもしれない。それは日銀からすると、たいへん都合がいい。いい子のふりをして、抵抗しようと思えばまた抵抗できる余地を残しておこう、といった魂胆があるのではないか。

――日銀の対応を見ながら、法改正も考えるべきだということですか。

今の日銀法(1998年に改正)は欠陥のある法律だ。それ以前、日本は50年以上旧日銀法でやってきた。法改正で政府が日銀に何でもできるレジームを変えようとしたのはわかる。しかし、今度は権限がすべて日銀へ行ってしまい、政府がほとんど口出しできない。日銀が目標と手段の独立性を併せ持つ、世界でまれなシステムにしたことが、長期のデフレに国民が苦しめられてきた原因だと思う。

きちんと金融政策を行うように、政府がいつも日銀に圧力をかけていれば、法改正は必要ないともいえる。だが、少しでもインフレの気配が出たら強引な引き締めをしたり、いろいろズルい口実をつくるような「悪い日銀」が、政府に協力する「良い日銀」に変わったとは思えない。政府が逡巡するようであれば、議員立法で法改正をすべきだろう。1月22日の共同声明で、日銀は「雇用」について一言も振れていない。(米国FRBの目的にある)「雇用の最大化」は言い過ぎかもしれないが、雇用水準は適正でないといけない。そうした目標を与えることは重要だ。

日銀総裁は、国会に呼ばれて参考人として説明することがあっても、公式な評価を受けることがない。そういう意味では、金融政策を評価するプロセスも不可欠だ。ただ、今後の1世紀を考えたとき、政府がおカネを刷って(日銀を)安易に使いたいと思うことがあるかもしれない。旧日銀法にあった総裁の罷免権まで財務大臣(当時は大蔵大臣)に与えるというのは極端で、そこまでやる必要はない。目標が達成できないときに、日銀が説明責任を負うことは最低限必要だ。

――日銀はマネタリーベース(流通現金+民間金融機関の日銀当座預金)のGDP比が他国よりも高く、金融緩和を進めていると強調しています。

日本は現金社会なので、ベースマネーの比率がいつでも多いのは当たり前。草食民族と肉食民族を、同じモノサシで図るのが日銀。経済学がわからないのか、国民をだますために言っているのかわからないが、対GDP比での議論はまったく意味がない。そもそも、為替には貨幣量の変化が効く。リーマンショック後、日本が金融緩和で十分な量のおカネを出さず、米国は量を出したので、円が高くなった。

――白川方明総裁は、欧米でもマネーの「量」に着目した議論はほとんど行われていない、と昨年11月の会見で話しています。

リーマン危機以降、マネタリーベースの伸び率を比較して分析したわれわれの研究は外国で認知されないというのだろうか? 私の教育(東京大学経済学部で白川氏は浜田氏の教え子)が悪かったのかもしれないが、経済学は事実を見ないといけない。

日銀は自分たちに責任がないようにするために理屈をこねる。詭弁法律家的な論理だ。今の状況で量に着目した議論がない、というのは世界の笑いものだと思う。

「イージーマネー」と「タイトバジェット」がカギ握る

――金融緩和の一方で、自民党は大型の財政出動をしています。

私の理解では、今は短期に日本経済のギアを入れ替えるときだから、大型の補正予算を組んだのだろう。しかし、景気対策として財政政策はあまり効かないということが国際金融の基本定理だ。財政で有効需要を喚起する力は、変動為替相場の下では弱くなる。

ただ、マンキューやクルーグマンといった有数の経済学者の中にも、政策金利がゼロになると金利を通じた景気への効果が弱くなるので、財政政策による後押しは必要だという意見は多い。彼らとは意見が若干異なり、私はゼロ金利でも金融政策が効く経路はなくならないと考えている。主役は金融政策、財政政策が脇役だ。

アベノミクスについて、足元では財政で後押しするが、2013年度の本予算では拡張型の財政をとらないと聞いている。かつて、日本経済が高度成長をした秘訣は、民間活力を生かすためのイージーマネー(金融緩和)とタイトバジェット(財政節度)だった。金融を使わずに財政でムチを振るうと、かえって民間活力が抑制される。

――そうすると、なおさら財政再建が重要になります。

まず、金融政策で完全雇用に近いところまで持っていく。そうすると歳入が増える。金融緩和で経済を刺激すれば、それだけで財政収支が改善するか否かは見方がわかれる。 

私は金融政策だけで、今の財政の構造的な歳入不足がすべてまかなえるとまでは思えない。まず、デフレを封印し、経済が活況を呈したならば緩やかな増税をすればいい。そのときは増税幅も少なくて済むだろう。

今回の補正予算の議論でちょっと不思議なのは、大盤振る舞いしたら歳入も増えるから、それをまた使っちゃおうという考えがちらつくこと。そうすると歳入欠陥を是正できず、歳入不足を招く悪循環を招くおそれもある。財政再建は必要だが、デフレ経済下にある今の状況では不可能だ。

――インフレになると、長期金利の上昇で財政負担がさらに高まるおそれがあります。

金利は上がるけれども、「マンデル・フレミング・モデル」で知られるマンデルは、基本的なケースでは、長期金利は上がるけれどもインフレ率より下回ると証明している。

長期金利が上がると、投資や消費活動に影響が出るし、債券価格が下落するという資産活動でのマイナスもある。他方で株価が上昇しており、それを通じた消費の増加という資産効果もある。金利上昇で国債を保有する銀行は損をするが、株価上昇で一般的に証券会社の利益は増える。資産への影響として、国債だけに的を絞るのは銀行セクターの陰謀のような気がする。

インフレを止められるか、という心配はある

――物価は上がっても賃金が増えず、実質所得が低下するという懸念もあります。

私はそうした通説とは逆の考えを持っている。金融政策が効くのは、賃金が動きにくいという硬直的な側面があるからだ。公共経済学の著書があるオックスフォード大学のアトキンソン教授に聞くと、金融政策が効くことと所得政策ができるのは同じことだと話していた。リフレ政策を通じて、物価上昇で実質賃金が低下し、企業収益が増えることで雇用拡大の余地が生まれる。

今まで失業していた人が新たに収入を得られるわけだから、実質賃金の低下で多く雇えるというプラスの効果がある。今働いている人がわずかずつ犠牲を払って、全体のパイが増える。ワークシェアのアイデアと同じだ。その後、雇用が増えて生産が盛んになれば、実質所得も上がっていく。

――経済全体が活性化するには時間がかかりますか。

そうは思わない。株式や為替市場は、秒の市場で効いているわけだから。現にアベノミクスが効いている。ただ、フローの所得や消費の伸びは緩やかな動きになり、モノとサービスの価格や量に影響が及ぶのは、時間がかかる。

今まで物価が動かなかったのだから、金融緩和でデフレ脱却は難しいというのが日銀の理屈だ。私はそうしたことは心配していない。物価が反応しなかったのは、日銀が嫌々ながらやってきたからだ。むしろ、心配しているのは、金融緩和が効き、その後、インフレが起きたときに、ちゃんと止められるかということ。

金融緩和が効くということは、副作用としてわずかながらインフレ的な状況になることでもある。デフレを解消し、インフレ的にならないというルートはあまりない。過度なインフレになりかかったときに、うまく止められるのかという心配は、理論的にはある。

――政府が財政規律を保つことや金融政策が財政ファイナンスと見られてはいけないと白川総裁はかねて強調しています。

財政が悪化していくとインフレになるモデルは、政府がおカネを刷らざるをえなくなるからだ。日本の財政は悪いが、日銀の抵抗でインフレにはなっていない。結果的にはその抵抗が強すぎるので、デフレが続いて国民が苦しんでいる。財政規律が失われると背景としてインフレの火種となりうるが、デフレのうちは国債を日銀が買い取れば誰も損せずに財政負担も軽減できる。日本国債の金利は1%。国民やマーケットがインフレをまだ心配しないでいいと思っている証拠だろう。

日銀は財政規律を保つために金融政策をやっているのではない。国民が十分に消費や投資活動ができて、かつ、物価が跳ね上がらないようにするのが本来の役割だ。今の日銀は、内科で胃のお医者さんが「いま問題なのは胃ではなく、呼吸器のほうです」と言って、その独占する胃の薬(金融緩和)を全然与えないようなもの。経済政策とは、いちばん病んでいる患部に効く薬をうまく使うことだ。

総裁には「お疲れ様」と言いたい

――次の日銀総裁は、誰が有力でしょうか?

それはわからない。首相が決める前に「この人」などと述べたら混乱するだけだ。学者風に見えても、国民のために決断できない人の問題点はわかったと思う。逆に、いかに有能な行政官でも、航海をするときに海図が読めない人はよくない。

白川さんは海図が読めるはずだったが、「日銀理論」という間違った海図を使ってしまった。船のスタッフを統御する行政能力、管理能力も必要だが、命令だけできて、海図も潮の流れも読めない船長だと“日本丸”は座礁する。

日本の国民が何に悩んでおり、それを直す手段がわかったのであれば、自らリスクを国民のために負って、大胆に責任を持ってやれる人が必要だろう。

――白川総裁が3月19日付で辞任を表明しました。

総裁任期を副総裁のそれに合わせたという理由なので、今までの金融政策に責任を感じているかどうかは分からない。自分の信念を曲げずに、誠実に職務を忠実に続けてきたことはわかる。「お疲れ様」と言いたい。ただ、その信念は日銀や日本のジャーナリズムだけに通用する「真理」にすぎず、デフレと円高で国民を苦しめたという事実は、歴史として残るであろう。(※辞任表明に関するコメントは、浜田教授が米国に帰国後、書面で回答を得た)

[東洋経済ONLINE]


■コラム:日銀新総裁にのしかかる海外の重い期待=佐々木融氏

外国人投資家の日本に対する関心はますます強まっている。筆者も海外の投資家や企業に対し、出張先で説明したり、Eメールで受け答えをしたりと大忙しだ。そんな中で、自分も含めた日本人と外国の投資家・企業の考え方に明確な違いがあるように感じ始めている。

もちろん、国内外の市場参加者ともに、先月日銀が導入した「2%インフレターゲット」の実現が難しいという認識では一致している。海外の市場参加者も、過去20年間で日本の消費者物価指数が前年比2%まで上昇したのは1997年の消費税率引き上げ後など特殊な時期しかないことは理解している。

しかし、両者では、会話の流れが大きく異なる。筆者を含めた日本の市場参加者同士ならば「2%のインフレはなかなか難しい」「景気が良くなれば、別にインフレ率は2%に届かなくてもいい」といった展開だが、海外の投資家、特にヘッジファンドのポートフォリオマネージャーの多くはまず「日本でインフレ率を2%に引き上げるのは難しいのに、どんな策を講じて2%にするつもりなのか」と聞いてくる。つまり、「ターゲットを導入した以上は、なんとかして、その難しいことを実現しようとしているはずだ」という考え方だ。

<海外投資家が注目する4月4日>

こうしたポートフォリオマネージャーの中には、新日銀総裁の下で最初に開催される金融政策決定会合で、かなり大胆な政策が発表されるのではないかと期待している人が多い。しかも、「もう少し国債の買い取り額を増やしたり、ETF(上場投資信託)の買い取り額を数千億円増やしたり、できてもその程度」などと筆者が冷めた回答をすると、「それはあり得ない」といった反応で返してくる。もちろん、それだけでインフレ率が2%にまで上昇するとは思えないからだ。

白川日銀総裁が任期満了を待たず、3月19日に山口・西村両副総裁とともに退任すると発表したため、総裁・副総裁の人選が順調に進めば、新体制下での最初の金融政策決定会合の結果発表は4月4日ということになる。

ただ、筆者は、海外勢のこうした期待は裏切られる可能性が高いのではないかと考えている。

日銀の外からは自分の主張を遠慮なく話すことができる人物でも、日本という世界第3位の経済大国の中央銀行総裁というポジションに就いたら、どうしても考慮しなければならない事項が増え、以前のように自由に自分の考えを述べるわけにはいかない。

日銀総裁は日本の金融システムの安定化を第一に考えなければならない。金融緩和だけが仕事ではない。金融を緩和することによって、日本の金融システムが不安定化するリスクがあれば、バランスをとった対応をせざるを得ない。そうした対応は、金融緩和がマーケットに及ぼす影響しか見ていない人には物足りなく映るだろう。

また、もっと円安にすべきだと思っていても、そもそも日本の為替政策は日銀の仕事ではないと法律に規定されている。財務大臣の権限である円売り介入を、外務大臣が実行しようと主張するようなものだ。加えて、欧米の当局者も、日銀の外にいる人の発言と日銀総裁の発言では当然対応が変わってくるだろう。

したがって、4月3―4日の日銀金融政策決定会合後、一時的に円の買戻しが発生するのではないかと予測している。しかし、調整はあまり大きくならないかもしれない。筆者は過去3カ月の急速な円安基調は、アベノミクスに対する期待も当然影響しているが、大きな流れとしては世界の市場参加者がリスクテイク嗜好を強める、いわゆるリスクオンの状況になっていることが影響しているのではないかと考え始めている。

世界の市場参加者は昨年半ば以降の欧州周辺国債券市場の落ち着きを見て、次第にリスクテイクに対する姿勢を積極化させ、9月に欧州中央銀行(ECB)が新たな債券購入プログラム(OMT)を導入したことにより、ますますそうした姿勢を強めた。米NYダウや独DAXはリーマンショック前の高値を超えて史上最高値を更新しそうな勢いである。

こうした状況下では、円は資本調達通貨として「弱い通貨」となるが、その動きがアベノミクスで助長されているのではないかと考えている。2005―07年頃に活発化した円キャリー・トレードの頃と似ている環境だ。当時と異なり、現在は他の主要国の名目金利がかなり低いため、キャリー・トレードが活発化することはないだろうが、日本の期待インフレ率が上昇し、実質金利が低下することにより、リスク性資産に投資をする時に、円が資本調達通貨として選好されやすい状況となっている可能性は十分にある。だとすれば、気をつけなければならないのは、海外発のイベント・ニュースにより、世界の投資家のリスクテイク嗜好が大きく後退することだろう。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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[ロイター]

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Posted by nob : 2013年02月11日 12:04