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脱利己的外交、、、もはや自国の立場や都合だけ考えていられる時代ではない、、、自国を護るためにまずは隣国から。。。

■北の核保有で笑うのは中国
「離米従中」へと韓国の背中押す核実験
鈴置 高史

 北朝鮮が3回目の核実験に踏み切った。東アジアはどう変わるのだろうか。

北の核を抑止できない米国

 もちろん、最も大きく変わるのは北朝鮮だ。核兵器を手にますます強気の外交に乗り出すだろう。ことに韓国に対しては相当な“上から目線”の姿勢に転じるのは間違いない。

 韓国はすでに米国に核の傘をかざしてもらっている。理屈の上では北の核保有後も韓国の安全は依然として担保されることになる。ただ、この理屈——核報復理論は仮想敵が「核戦争による自国の消滅を避けようとする合理的な国家」であることを前提としている。

 北朝鮮は「合理的な国」とは見られていないので、米国の核の傘が北の核使用に対する完全な歯止めになると韓国は信じることができない。

韓国で語られる北への先制攻撃

 このため、韓国では北の3回目の核実験以前から先制攻撃論が語られていた。韓国国軍の制服組トップである鄭承兆・合同参謀本部議長は2月6日に国会で「核保有国となった北朝鮮が韓国を核攻撃する兆候があれば、先に北の核基地を叩く」と主張した。

 この先制攻撃論は一見、勇ましい。しかし、実質は韓国の弱腰を如実に示すものだ。なぜなら「北朝鮮が核を保有するだけでは韓国は軍事行動には出ない」ことも暗に意味するからだ。「南を核攻撃する兆し」を気取られない限り攻撃されない、と北は安心したかもしれない。

 軍事専門家によると、北への先制攻撃は韓国軍単独では難しく、米軍が主軸とならざるを得ない。しかし、米国が乗り出すかは不明だ。ペリー元米国防長官は 2月5日「軍事攻撃で北の核能力を抑止することは可能でない。(核施設のある)寧辺への先制攻撃が計画された1994年とは状況が異なる」と聯合ニュースに語った。

 不可能な理由は「1994年当時は北朝鮮の核施設が(寧辺の)1カ所に集まっており、1回の攻撃で核施設を破壊することが可能とみられた。しかし、現在は北朝鮮全域に核施設が散在しているうえ、核兵器の運搬が可能であり、軍事的攻撃は難しい」からだ。

イスラエルは敵の核を自ら攻撃

 ただ、米国の本音は「1カ所かどうか」などという実現性の問題ではなく、朝鮮半島でリスクをとりたくないだけかもしれない。「1カ所しかなかった」 1994年だって先制攻撃を実施しなかったのだ。北との全面戦争になれば在韓米軍の軍人や家族に多数の死傷者を出すとの予測からだった。

 それに今、米国の外交的な優先課題は「イランの核」であり「北朝鮮の核」の優先順位は低い。イランに対しては「核を一切持たせない」決意のもと、いつイスラエルが先制攻撃するか分からない状況だ。

 一方、韓国はそれほど必死ではない。「核攻撃の兆しがない限り」北を攻撃しないというのだ。韓国人の心の奥底には「同族の北の人々が我々を核攻撃するなんてありえない」という心情がある。

在韓米軍の家族は殺せない

 米国が自国の軍人と家族を危険にさらしてまで、そんな国を助けるかは疑問だ。米国は、核兵器をテロリストなどに売ろうとしなければ、消極的にだが北の核保有を認めていくのかもしれない。

 この際、韓国に対しては「核の傘を提供しているのだから安心しろ」と、やや心細い担保を示して納得させようとするだろう。

 結局、韓国の選択肢は3つ。まず、米国を頼り続ける現状維持路線だ。このケースでは北の核への恐怖を少しでも減らそうと、米国の協力を得てミサイル防衛(MD)網を造ろうとの声が出るだろう。

 実際、韓国紙上でMD導入論が主張され始めた。ただ、中国が韓国に対しそれを強く禁じていることから実現は容易ではない。これまでも、米国からMD開発に強く参加を求められながらも中国の圧力に屈して断ってきたのだ。

 米国頼りの道は先細りかもしれない。核を持つ北が次第に増長するのは確実だからだ。兆しはもう出ている。

北がコントロールする韓国

 韓国と北朝鮮と経済協力事業を行う開城工業団地。ここを通じて南から北に流れる外貨は、北朝鮮にとって文字通りドル箱だ。核開発を続ける北にドルを渡すことこそが奇妙な話であり、米国も時に疑問を呈するのだが韓国はやめようとしない。

 韓国の統一部報道官は2月8日の定例会見で、同工業団地に関し、対北制裁手段の対象として検討していないと表明した。また「開城工業団地は南北協力の重要な資産との立場に変わりはない」と強調した。

 昨年12月の北朝鮮のミサイル実験への制裁の一環として、韓国は2月4日、同工業団地に運ばれる物品に対する点検を強化する方針を打ち出した。これに対し北朝鮮は報道官名義の談話を発表し「少しでもおかしなことをすれば極悪な制裁とみなす。開城工業団地に対する全ての特恵を撤回し、再び軍事地域に戻すなど対応措置を取る」と強く反発した。

韓国も核武装で、北東アジアに恐怖の核均衡

 すると韓国は大慌てし「開城工業団地の正常的な生産活動に制約を加える意図はまったくない」と軌道修正したのだ。ある意味で、北が核を持つ前から韓国は北のコントロール下にある。

 今後、核を持った北に対してはさらに言いなりになる可能性が高く、この工業団地を通じ、さらに巨額のドルが北に流れ込むようになるかもしれない。

 韓国の親北派は目的達成と大喜びするだろうが、怒り心頭に発した保守派は対北強硬策を求めるだろう。

 すでに保守派の大御所である、金大中・朝鮮日報顧問(同名の元大統領とは別人)が「北の核実験、見学しているだけなのか」(2月5日付)で、実現性の高い解決策の1つとして韓国の核武装をあげた。これが韓国の選択肢の2つ目だ。

 北東アジアに「核の恐怖の均衡地帯」を造ることで、北の核の脅威をなくす——という発想だ。そもそも保守派も左派も、韓国には核兵器への渇望が根強い。

遠くの米国より隣の中国

 大国に挟まれた小国が属国に落ちぶれず生き残るには核保有国になるしかない、との思いからだ。自国内での核燃料の再処理を米国に強く求めるのもそのためだ。

 だが、それは米中がともに全力で抑え込みにかかることになろう。北朝鮮に続く韓国の核武装は、日本の核武装も呼ぶ可能性があるからだ。中国との衝突が日常化して以降、核武装への日本人の嫌悪感は急速に薄れつつある。日本の核武装は、中国はもちろん米国にとっても歓迎すべきことではない。

 韓国の識者が外国人のいるシンポジウムで語ることもないし、新聞が記事や社説で主張することもない。しかし、韓国人同士が小さな声で語り合っているのが3番目の選択肢——米韓同盟を打ち切って中国と同盟を結ぶ手だ。

 少なくとも理屈ではそれは極めて合理的だ。遠く離れた米国よりも隣の中国の方が朝鮮半島の安定を強く望むとすれば、韓国を北朝鮮の核の脅威からより真剣に守ってくれるのは中国に違いない。

米国の裏切りを恐れる韓国

 米国は最後の段階で韓国を裏切って「核を輸出しなければいいよ」と北の核保有を事実上、認めるかもしれない。だが、韓国が中国と同盟を結ぶ一方、米国との同盟を打ち切れば、中国は「韓国はもう、核の後ろ盾がないではないか。なぜ、核を持ち続けるのか」と北から核を取り上げてくれるだろう。米国と比べ中国は北朝鮮に対し、はるかに大きな影響力を持つのだ。

 中国との同盟は、安全保障では米国に頼り、しかし経済では中国市場に頼るという“また裂き状態”をも解消できる。日本との対立が深まる中、米韓同盟下では米国はケンカするなというばかりで助けてくれなかった。だが中韓同盟を結べば、日本を敵とする中国が韓国の代わりに日本をやっつけてくれる。「中韓同盟」は韓国にとっていいことばかりだ。

 理屈だけではない。2012年7月、朝鮮日報がミサイルの射程距離を伸ばそうと大キャンペーンを張った。核兵器の運搬手段であるミサイルの射程に関し米国は韓国に制限をかけている。

 同紙は反米感情をあおり、米韓交渉で譲歩を引き出そうとした。以下は、その時、読者の書き込み欄で「BEST」に選ばれたものだ。

中国との同盟が要る

 「韓国の軍事力拡大を制約し続ければ、むしろ韓国の対中接近を加速化してしまうことを米国は明確に理解せねばならない。北塊(北朝鮮)が核武器を持った状況下で、韓国が在来式武器だけで何とか自らの土地での戦争を回避するには、韓米同盟ではなく中共(中国)との単一経済圏、軍事同盟が要ると判断する状況を招くだろう」(「『ミサイルの足かせ』はずそうと米国に「NO!」と言う韓国」参照)。

 韓国人が3つの選択肢の中からどれを選ぶのか、まだ分からない。だが、忘れてはならないことが2つある。韓国が北朝鮮の核から身を守るには「離米従中」がもっとも合理的であるという論理。もうひとつは、永い間、中国の宗属国だった韓国には、中国の傘下に入ることへの拒否感が保守派を含め薄いことだ。

[日経ビジネス]


■北京PM2.5汚染の本当の原因
都市民の環境意識を含めた蓄積の結果
福島 香織

 中華圏では1年の始まりというと旧正月・春節だ。みな長期の休みをとり、民族大移動よろしく一斉に故郷にもどり、除夕(大みそか)に勢大に爆竹・花火を上げる。大きな音と光で、邪悪を払う伝統行事だが、例年けが人が出て火事が何件か起きるほど激しいものである。2013年の春節除夕は2月9日。今年もユーストリームなどで、東京にいながらして各地の爆竹花火の様子がリアルタイムで見ることができた。

 だが現地の人から聞いた話では今年の花火は例年よりはおとなし目だったそうだ。翌日の新聞によると、北京で打ち上げられた花火は昨年より4割減ったそうだ。2012年の春節花火が前年より3割減だと報じられたが、この時は中国経済の減速の証だと言われていた。今年の花火4割減は、経済的要因というよりは、言うまでもなく大気汚染が原因だろう。

 今年の中国中東部は異常寒波が襲い、大気の環流が例年と違うために各地でかなりひどいスモッグ現象が起きた。北京では1月、わずか5日間を除く26日間スモッグが発生。これは新中国成立後最悪だという。このため、呼吸器の疾患も続出し、俗に「北京咳」と呼ばれた。

 爆竹花火は瞬間的にだが、大気をひどく汚染する。これ以上大気汚染がひどくなってはならない、と当局が爆竹花火を控えるように呼びかけていたこともあり、今年は花火の売り上げががたっと落ちたのだという。

 2月に入り、北京の空気はずいぶん落ち着いたらしいが、陝西省西安市では春節の10日に濃いスモッグが発生し、視界が20メートル先までしか見えないところもあったという。しかし、なぜ今年早々、各地でこんなにひどいスモッグが起きたのだろうか。このあたりの背景を聞かれることが最近多いので、私なりに情報を整理してみる。

北京オリンピックの年にびっくりするほど清浄になった

 北京というのはそもそも埃っぽい街である。春にはゴビ砂漠や黄土高原方面から吹きこむ風によって黄砂が降り、一夜にして数十万トンもの砂が降り、街全体が黄色に染まることも年に1度や2度はあった。

 もともと降水量が少ない乾いた土地である。周辺の河北省あたりの砂漠化も進んでいた。1999年に北京を訪れたとき、空は晴天でも白っぽくかすんでいることが多かった。もちろん、重慶や西安など他の都市にもっと大気汚染のひどい地域がたくさんある。北京の大気汚染度は連日のスモッグが大ニュースとなった今年1月の段階でも、全国74都市中、9位だという。ワースト1は邢台(河北省南部の工場地帯)だ。

 北京に関していえば、その酷い空気が2008年、びっくりするほど清浄になった時期があった。五輪を開催するにあたって、国際社会が北京の大気汚染問題について強い懸念を示したことから、北京市も本腰で空気清浄化作戦を展開したのだった。

 市内にあった首都鉄鋼集団(首鋼)の主な工場は河北省唐山に移転され、排ガス規制も「ユーロ4」に相当する北京四の基準が導入された。これに伴いガソリンの質も北京に置いては国四と呼ばれる硫黄含有50ppm以下のものを販売するようになった。

 交通渋滞を緩和するために、奇数日に奇数ナンバープレートの車両、偶数日に偶数ナンバープレートの車両しか運転してはならないという車両規制も導入。さらに、五輪開幕前から、建築現場での作業を全面休止させた。建築現場から立ち上る粉じんは北京の空気汚染の大きな原因でもあった。

 そのかいあって、2008年の夏から秋にかけて北京は、すばらしく清浄な空気に包まれた。「やればできる子、北京!見直した」と私の周囲では、高く評価する声が聞かれた。ではその後、いつの間に、再びここまで大気汚染が悪化したのか。

米大使館と中国環境当局発表の大きな違い

 北京の大気汚染が再びひどくなったと実感し始めたのは2010年ごろからである。勤めていた新聞社を辞めてから再び北京に2カ月に1度のペースで行き出して、まず交通渋滞がひどくなったことに気がついた。北京の自動車保有台数は2012年初めに500万台を突破したことがニュースになった。今年初めは約 520万台となっている。2007年5月に300万台突破のニュースを書いた覚えがあるから、それから約200万台増えたことになる。

 車は確かに増えたが、北京人口2000万人、東京1300万人口の自動車保有450万台弱と比較すると、猛烈に自動車が多いというわけでもない。交通渋滞がひどいと感じる最大の要因は、ひとえに交通インフラの脆弱さのせいだろう。

 2009年から始まった北京の米大使館がツイッターで公表するPM2.5のデーターに環境意識の高い中国人たちの関心が集まり始めたのもこの頃である。 PM2.5とは直径が2.5マイクロメートル以下の超微粒子のことで、大気中に浮遊するこの超微粒子が肺に入り込みぜんそくや気管支炎を引き起こす原因ともなる。

 この超微粒子が1立方メートルの空気にどのくらいあるかというのが、健康に影響する大気汚染の1つの指標である。50以下が正常で、300以上になると、屋外での運動などは控えた方がよい、とされる。それまで中国環境当局はPM2.5の観測を建前上はやっておらず、10マイクロメートル以下の浮遊粒子量をはかるPM10を基準としており、それを基に大気汚染指数を発表してきた。しかしながら、汚染が軽度(2級)以上の日数について目標値が定められており、恣意的に観測結果が操作されることもあって、米大使館発表としばしば結果が大きく違った。

 この米大使館発表のPM2.5数値が中国環境当局発表と大きく違い騒然となったのが2011年12月5日。この日、中国北部で大スモッグが発生し、高速道路が閉鎖され、飛行機300便の発着が取り消される事態が発生。この前日の12月4日午後7時に米大使館が発表した数値は、PM2.5濃度522、空気の質指数は最高値のAQI500、健康への影響は「(悪すぎて)指標外」だった。

 一方、北京環境当局が4日正午に発表した数値は空気汚染指数193、軽度汚染2級。翌日の、真っ白な大気を見れば、北京環境当局の観測値がいかにいい加減であるかが一目了然となった。

 この事件から、中国の環境に関心のある人たちの間で一気にPM2.5への関心が高まり、中国の環境当局の観測のいい加減さを非難する声が強くなった。中国側はそれまで米大使館が独自にPM2.5を観測して公表していることに対し内政干渉だ、国民を動揺させると強く批判していたが、当局内部でも大気汚染指数の基準を見直す動きが始まった。

 結局、約9.5億元の予算を投入して2013年1月1日からPM2.5と臭気の観測が正式に導入された。そして1月の北京、天津、河北省地区の大気は観測史上最悪を記録したわけだ。

自動車、暖房、レストラン

 今年1月の大気汚染の原因については、中国科学院大気スモッグ原因追究・制御専門研究チームが調査結果を2月3日に発表した。それによると、三大原因として自動車、暖房、レストランなどの厨房の排気があげられ、北京の大気汚染源の50%以上とされた。特に自動車の排気はPM2.5の4分の1の発生源という。

 暖房というのは、北京の暖房システム「暖気(ヌアンチー)」から出る排気のことだが、都心の集合住宅で採用されている暖気は、おおむね燃料が天然ガスに切り替わっており、しかも排気が外に漏れない形になっている。しかし、都心の周辺部には、石炭や練炭を燃料とした昔ながらの暖気が稼働しており、数としては2000カ所程度と決して多くはないのだが、異常寒波の今年、特に燃料が多く燃やされたこともあって、空気汚染の一因となっていると指摘されている。

 また、北京周辺の河北省や天津などの工場地域から流れ込んでくる汚染も5分の1を占めるという。

 こういう汚染された大気が、特殊な気象条件のもと、北京に長時間滞留したといわれる。

 特殊な気象条件については中国科学院が1月31日の段階で発表している。要約すると、ユーラシア大陸の大気還流が異常で、中国の北京・天津・河北省あたりに風のない静穏な天気が出現した。北京・河北省が中心となる形で周囲の気圧が等しくなり、大気が水平方向に流れなくなった。普段の対流境界層は2、3キロの厚みがあり、これが対流風を形成する。しかし静穏天気のもとでは、この対流境界層はわずか200〜300メートル。上下の空気の流動も起こらず、 PM2.5濃度の汚染が北京・天津・河北省に沈殿する形となり、未曽有のスモッグを発生させた、という。

北京大学とグリーンピースの共同調査では

 中国当局としては年初の首都を中心とした深刻な大気汚染はかなりショックをもって受け止めたと言われている。1月に発表された北京大学とグリーンピースの共同調査では、北京、上海、広州、西安の四大都市で昨年のPM2.5が原因で早死にしたとされる人数が8500人に上ったという。これによる経済損失が 68.2億元とも。

 こういった各専門機関からの報告もあって、北京では年内に硫黄成分10ppm以下の「国五ガソリン」の導入を決めた。また排ガス規制も2月から、「ユーロ5」に相当する「北京5」の基準をクリアした自動車しか新規のナンバープレートを取得できないこととした。再び北京五輪当時の「やればできる子」なところを見せようとしている。

 しかし、私の個人的な感覚で意見を言わせていただければ、この種の努力で成し得る改善の程度は限度があるだろう。北京の大気汚染の本当の原因は、私は自動車の排ガスといった単純なものだけではないと思っている。

 排ガス規制もガソリン基準も、北京は周囲の都市に比較すると格段に厳しく、暖気の天然ガス化、クリーン化もずいぶんと進んでいる。

 だが、それが根本的な改善に結びついていないのは、環境汚染は複合的に起きるもので、排ガス規制やクリーンエネルギーといった個々のテーマではなく、都市としてのシステム、そこで暮らす人々の意識、また周辺都市とのつながりも含めたもっと広い地域の問題として取り組んでいないからではないか、と感じている。

 五輪のとき、北京の空気を良くするために汚染を排出する工場を周辺地域に追いやった。北京だけガソリンの質の基準を高くしたが、周辺都市では質の悪いガソリンが使われている。それどころか、周辺地域ではガソリン価格を不当に抑え続けているために、ホルマールや炭酸ジメチルを使ったニセガソリンまで出回っている。

 北京の空気を綺麗にするため人工降雨弾(ヨウ化銀弾)を空に打ち上げ、盛んに雨を降らした結果、周辺地域で異常気象が起き、干ばつや大雨の被害が出たとも言われる。結局、首都の汚染ばかりをなんとかしようとして、周辺に汚染を拡散させ負担を増やしている。

 だが、大気の流れ次第で周辺に拡散した汚染が再び北京に流入することにもあるし、周辺地域の悪いガソリンを使った輸送車が北京に汚染を持ってくることにもある。何より汚染を周囲に押し付け、自分のところだけ汚染が改善されればよいという発想から脱せない人々は、真の意味での環境問題意識は持てないだろう。

東京は技術協力を提案しているというが

 大気は上空でつながり、北京の汚染は日本の方へ流れてゆく。汚染問題は首都北京だけの問題でもなく、中国だけの問題でもない。車の性能やガソリンの質が良くなっても、交通渋滞が解消されなければ排気ガス汚染は解決されない。

 交通渋滞はインフラ整備の問題だけでなく交通ルールやマナーという人の意識にも関わってくる。結局、周囲との調和や配慮、連携なくして汚染問題、環境問題というのは解決できないのだ。

 東京は北京の大気汚染問題対して、技術協力を提案しているという。東京の空気の清浄さは、排気やばい煙対策という個別の技術と都市インフラ、都市民の環境意識を含めた蓄積の結果としてある。その経験とノウハウは北京にとって必ず役立つだろう。

 昨今、日中関係が緊張し、春節除夕には「東京大爆発」と言った花火を打ち上げて、うっぷんを晴らした北京市民もいたようだが、日本人は心が広いので、おそらくあまり気にしていない。

 まずは日中間に立ちこめるきな臭いスモッグを中国人の方から払ってほしいものだ。心の曇りを払い、周辺に配慮し、連携、協力を進めることが、自分たちの住む国の空を清浄にすることにつながるはずだ。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2013年02月13日 10:10