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そのとおり!!!Vol.23、、、歴史に残る大仕事をもう一つ、稲盛氏には東電の解体と再生に取り組んでいたたきたいと切望しています。。。Vol.2

■稲盛和夫が諭す
説き、訓じて心を1つに
稲盛和夫氏[日本航空名誉会長]に聞く(後編)

電機業界をはじめ、多くの大企業が低迷を続ける日本。厳しい外的環境の中で、リーダーが今こそすべきこととは何か。前編に続き、稲盛和夫氏に話を聞く。 (聞き手は 本誌編集長 山川 龍雄)

3万2000人の心が変わったから
日本航空は再建できた
リーダーの役割は心を変えること

稲盛さんは今年早くに日本航空(JAL)の名誉会長を辞任するとおっしゃっています。改めてJALの再建を振り返り、何が重要だったと思いますか。

稲盛:私は、航空運輸事業に対して全く無知で門外漢でした。JALの会長に着任した当時は、再建できる自信のかけらもありませんでした。私が持っているのは、自分の経営哲学「京セラフィロソフィ」と、小集団による管理会計システム「アメーバシステム」だけです。何も分からないまま、この2つだけを携えて、JALに来ました。

まるで異なる業種の会社に着任してみて、最初はどんな印象だったのでしょう。

稲盛:JALはいわゆるピラミッド型の官僚組織のような企業でした。一握りのエリートがすべてを企画し、約5万人の社員に指示を出していた。幹部からは人間味を感じられず、非常に冷たいエリート官僚のような感じがしました。

 これで会社経営がうまくいくはずがない。まずは幹部40〜50人に考え方を変えてもらわないとならん。そう思って、経営者である以前に人間としてどうあるべきかという人生哲学を説き始めたんです。

 JALの幹部は皆さん、50歳を過ぎています。彼らを相手に、中小企業を興した80歳のおっさんが話をすると、最初はみんな変な顔をしていました。顔を見たら、小ばかにしているのか納得しているのかは分かります。不真面目な人間は厳しく叱りましたよ。

 「親父に当たるような年の人間が、親が子に説くようなことを言う。そのくらい知っとるわと思っとるやろう。でも知っていても、それを身につけていないどころか、日常の行動に何も反映されていない。君の人間性が考え方に影響を及ぼし、人間性そのものが日常の経営に出てこなければ意味がないんだよ」、と。それはもうとことん話しました。

少しは効き目がありましたか。

稲盛:私があまりに厳しく言うものですから、少しずつ分かり始めてくれました。猛反省して、ほかの従業員にも伝えようと思うように変わってきた。そこで、現場の社員まで一気に考え方を広げていきました。

 私が就任した当時、JALは約280機の航空機を所有し、1日に世界中で1000便以上を飛ばしていました。羽田空港や成田空港には大型整備工場がある。航空ビジネスは一大装置産業だと思っていたんですね。

 けれど装置産業であると同時に、究極のサービス産業だとも私は思いました。お客様がJALを愛し、JALを選んで乗ろうと思わなかったら、再建できるはずがない。そのためにはヒューマンなファクターが非常に大事であると。

 現場で働く人たちが素晴らしい人間性を持つようになって初めて、お客様はJALに乗ろうと思うようになる。そこで私自身が様々な現場に出向いて、現場の従業員にこんこんと説きました。

 80歳を前にした老人が、無給で現場に来て、人間としてどうあるべきかを説く。「上に言われたからではなく、現場それぞれが自分で工夫し、ムダを省いてほしい」とも伝えました。するとそれぞれの現場が考え方を変え、持ち場で一生懸命、創意工夫を重ねるようになった。みんなが目覚めてきて、雰囲気ががらりと変わりました。

つまり、従業員の心理面にアプローチすることが重要だった。

稲盛:約3 万2000人全員の心が変わったからこそ、JALは再建できたと思っています。「私も老骨にむち打って頑張るから、皆さんもついてきてください。皆さんが会社を良くするという気持ちにならなければ、会社は再建できません」。こう説き、それに応えてくれたから、奇跡的な復活を遂げられた。リーダーの役割は、現場の人の心を変えることだと思っています。

結果が業績にも表れた。

稲盛:2011年3月、再建に着手して初めて迎える決算では、営業利益1800億円という驚異的な結果が出ました。すると今度は、全社員が自信を持ち始めた。自分の努力が結果となって出たわけですから、楽しくなって、ますます拍車がかかるようになる。

 そこで結果を分かりやすくするよう、組織を小集団に分けて責任者を置き、各部門が自主的に経営する「部門別採算性」を導入しました。

中央集権化が衰退を招いた

現場から組織を変えていく。これはほかの産業でも通用しそうです。

稲盛:日本では今、パナソニックやシャープ、ソニーに代表される電機業界が非常にミゼラブルな状態に陥っています。この要因はJALと同じように、すべてが中央集権化したことにあると思っています。

 私は若い頃、松下グループの下請けをしていました。その頃、経営者として何度か(松下)幸之助さんからお話を伺ったことがあります。

 当時、幸之助さんは事業部制を始めていたんですね。恐らく日本で初めて企業を事業部ごとに分け、それぞれが自主独立で事業を進めるようにした。私は、この仕組みによって松下グループは発展したと思っています。

 ところが、ある時から事業部制を廃止して中央集権的な体制を敷くようになった。松下パナソニックとして松下通信工業や松下電工を合併し、三洋電機も買収した。関連会社を傘下に入れ、中央集権的な支配をするようになった。この流れはソニーなど、ほかの電機メーカーも同じでしょう。

 それまでは事業部制の下で、テレビ事業部やラジオ事業部、通信機や洗濯機などが並列して、各部門に権限があった。各事業部がそれぞれ次の戦略を練って、技術開発から製造、営業まで担ってきたわけです。

 ただ当然、事業部が多すぎるとグループとしての統一は取りづらくなる。機能が重複するとムダも出る。それで中央集権に変えたのでしょう。ですが、それが各事業部の力をそいでしまった。中央集権にしたことで、各事業部の力が弱っていったのです。

 私はJALの中で、約3万2000人の力を引き出せば、どれだけ偉大なことができるかを証明しました。日本の大企業も同じように、現場の力を信じて権限を委譲し、全員の心を奮い立たせるべきだと思います。それにはやはり、中央集権的なあり方は合いません。角を矯めて牛を殺すことになりますから。

 日本の大企業は非常に活力を失っています。特に電機業界では、サムスングループにやられ、アップルにもやられてしまった。ですが日本には、今でも素晴らしい技術があり、ロイヤルティーの高い社員がいる。それを使い切れていないのは、完全にマネジメントの責任です。

なぜ、こうなったのでしょう。

稲盛:イージーな経営がすべてをダメにしたと思っています。

 景気のいい時は派遣社員を使い、悪くなったら辞めさせる。いつからか、こういうイージーな経営をするようになってしまった。欧米流の人材派遣を日本も導入してきましたが、その結果、忠誠心の高い従業員の心がすさんでしまった。正社員で残った人も、自主性を認めてもらえず腐っていった。そして結局、全体がダメになった。

 繰り返しますが、日本にはまだまだいい技術者もいますし、素晴らしい人間性を持つロイヤルティーの高い社員もいます。社員を大事にし、それぞれが力を発揮できるシステムに変えるべきなんです。

社員の幸せを経営目標に

具体的に何をすべきですか。

稲盛:京セラの場合、私は会社経営の目的を「全従業員の物心両面の幸福を追求する」と掲げています。それをJALにも持ってきて、経営理念の冒頭でうたっています。

 JAL再建の過程で、この経営理念を見た企業再生支援機構の管財人の方々は、「従業員だけが幸せであればいいという矮小化した哲学はいかがなものか」とおっしゃいました。企業は社会の公器であるべきだ、と。

 ですが、それでいいんです。社員が幸せでなければ、社会の公器としての役目を果たせるわけがない。どんな目標も、社員が幸せでなければ達成できません。全社員が、自分の属する企業を自分たちの会社だと思い、頑張ることが重要なんです。全社員の力を借りようと思うなら、会社の経営目的を従業員の幸せに置くことです。

 まずは、全員の心を結集させる。マネジメントのトップが力を貸してくれと現場まできっちり伝えて、自主独立の組織に再分割してやらせていく。それだけで、1年もすれば企業は蘇るでしょう。JALは、1年も経たずに蘇ったわけですから。

確かに机上の数字合わせに気を取られ、従業員のモチベーションに焦点を当てたマネジメントをしなくなっているのかもしれません。

稲盛:いわゆる理屈によるマネジメントは、欧米流のやり方です。これが精神的な支えなく経営できるのは、根底に成果主義があるからです。

 経営者はトップダウンで、従業員に「これだけの成果を出せばこれだけの報酬をあげよう」と伝えるだけでいい。金銭的なインセンティブ、つまり物理的なモチベーションがありますから、やれと言われればやる。

 ですが日本は、それほど思い切ったこともできていない。成果主義を導入して、うまくいかずにやめた会社もたくさんあります。成果主義のように物で釣ることなくマネジメントするには、心理学的な手法しかあり得ない。

リーダーとは哲学者であり
従業員の教師でもある
熱涙下る訓示で心を1つに

極端な成果主義を導入していない日本企業の場合、リーダーは、従業員に向け説法を続ける必要があると。

稲盛:その通りです。リーダーとは哲学者であると同時に、従業員の教師でなくてはダメだと思っています。

 京セラは小さい部品を作って売上高約1兆3000億円、JALは飛行機を飛ばして約1兆2000億円。内容こそ違いますが、両方とも細かな部分まで分かろうと思っても、分かるわけがありません。下から積み上げて、任せるべきものは任せる。経営者は何を見るかさえしっかりしていればいいんです。

しかし厳しい局面にある企業の場合、経営者は事業縮小や撤退、人員削減などの決断を下さなくてはなりません。現場がすさむ中でやる気を出させるのは非常に難しいと思います。

稲盛:JALの場合、会社更生法が適用されましたから、人員削減や給与カットをしなければ再建もできなくなるような状況でした。そのために、(人員削減を)何としても認めてくれと言い、残った3万2000人の雇用だけは何としても守るよう頑張ると話をしました。

 ただ倒産していない企業の場合、現場の理解を得るのはさらに難しいでしょう。「会社を本当に立て直すためには、犠牲を払ってもらわなければならん。みんなを必死に守る」と真正面から言わなければならない。

 経営者は、「これだけのことは辛抱してくれ。冷たいかもしれないけれども、やらなければ会社が再生できない。ただこれ以上のことはやりません」とはっきり伝えるべきです。トップが現場の従業員全員に対して、熱涙下るような訓示を出さないといかん。

JALでも、熱涙下るような訓示をされましたか。

稲盛:JALでは熱涙下るような話はしていません。けれど、80歳を前にした老人が、無給で陣頭指揮を執る。もうそれだけで説得力はあるわけです。

同時に早い時期に結果を出すことも再建には重要だと思います。

稲盛:結果はずるずるとは出てきません。何事も良くなる時は、すっと結果が出る。一気呵成で良くなるのは、病気も同じですからね。じりじり良くなるのは、慢性病です。

人口減や国内市場の縮小などの外的要因で、売上高が伸ばせないという経営者の悩みをよく耳にします。

稲盛:私は戦後の日本経済しか分かりません。けれど戦後から今に至るまでにも、円高や石油ショックなど、いろいろな谷がありました。ただどの企業も、その谷をくぐり抜けてきている。稼げない時は費用を減らすことを考え、木枯らしを耐える努力をしている。売り上げが増えないからといって、何を嘆くのかと感じます。

考え方が甘いと。

稲盛:売り上げが増えないなら、耐えなくてはしょうがないでしょう。耐えながら、一方で新製品や新規事業を考える。寝言を言うなと言いたいですね。

 売り上げが増えないことなんていくらでもあります。経済は変動するんだから。ただ、バブル崩壊後の日本では、(起業家ではなく)サラリーマンがトップに立っている。だから根性のある人がいないのでしょう。

 経営とは、引いてよし押してよしです。売り上げが増える時には押すし、悪い時には引いていく。どの局面でも、リーダーには燃えるような闘魂が必要です。強い意志と闘魂がない人は、リーダーになっちゃいかん。

 元は大変怖がりで慎重でも、いざとなったら、火の中水の中であろうと勇気を奮い起こす。ここぞというところでは命を懸けて一歩も引かない。この闘魂が経営者にはいるんです。

 ですが、日本の経営者にはそういう人がいらっしゃらない気がします。

リーダーがおらず、後継者選びに苦慮されている経営者も多いです。

稲盛:それは本当に難しい。後継者をどう選ぶかは永遠の課題ですから。特に世襲制ではない大企業の場合は非常に難しい。日本の大企業がシュリンクしているのも、やはり後継者の選び方がまずかったからだと思うんです。

JALの場合はどうでしょう。

稲盛:私は今年なるべく早めに、JALの名誉会長職を辞めます。大西(賢)会長や植木(義晴)社長、専務陣を選び、彼らに託しました。今まで3年間、私が会議で言ったことや直接話したことを自分のものにして、しっかり経営してくれと言うしかないですね。心配してもしょうがありませんから。

辞任後、稲盛さんは何をされるのでしょうか。

稲盛:年間スケジュールが決まっている盛和塾の活動は続けていきますし、稲盛財団もやっていきます。ただ、ここまでばかみたいに働いてきましたから。たまに焼酎でも、1杯飲ませてください(笑)。

傍白
 電機業界復活の処方箋は、稲盛さんにぜひ聞いてみたいテーマでした。その質問をどこで切り出そうかと考えていたところ、ご自身の方から、自然な形で話題にしていただきました。創業した京セラが同じ関西企業ということもあり、パナソニックやシャープの動向は、人一倍気になるのかもしれません。電機業界が低迷している原因はどこにあるのか。稲盛さんはここでも、技術やマーケティングといった手法ではなく、従業員の心理面から解き明かします。「日本企業は現場の力を信じずに中央集権化を進めて、弱体化したのではないか。松下幸之助さんが事業部制を導入した意図をいつの間にか忘れてしまったのではないか」。思わずハッとさせられる指摘でした。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2013年03月28日 09:23