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明日できる仕事や他人ができる仕事はしなくてよい、、、同感です(苦笑)。。。Vol.2

■「行動できない」「先延ばしする」悩み、科学的アプローチで乗り越えられるか? ──最先端「自己啓発書」を一気読み

今回取り上げる3冊
『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』ピアーズ・スティール(著)、池村千秋(訳)/阪急コミュニケーションズ/1890円
『人はなぜ「死んだ馬」に乗り続けるのか? 心に働く「慣性の法則」を壊し、自由に「働く」ための26レッスン』T・ディースブロック(著)、三谷武司(訳)/アスキー・メディアワークス/1680円
『動きたくて眠れなくなる。』池田貴将/サンクチュアリ出版/1260円

社会も個人もはまりこむ「行動できない」という問題

 「決断する政治」という言葉が流行っている。当然のように赤字を重ねてきた国家財政の再建、解決を先送りし続けた挙げ句ニッチもサッチもいかなくなった領土問題、そして高まる反原発の運動など、たしかにいい加減にナントカしよう、このままじゃダメだ、変えよう! という機運はかつてなく高い。

 「この人民あってのこの政府」と言ったのは福沢諭吉だったが、「決めた通りに行動できない」「問題をグズグズと先延ばししてしまう」という悩みは、政治に限った話ではないだろう。

 個人レベルでも猛威をふるっている問題だ。

 この問題との付き合いは、泣きながら仕上げた夏休みの宿題に始まる。学生時代は、試験勉強やレポート、論文などの課題で「もっと早めに手をつけていれば……」と空を仰ぎ、社会人になってからは、メールの返信、報告書の提出期限、資格試験や語学の勉強、転職、ダイエット、ジョギング、いつかやりたい旅行や趣味……などなど、言わずもがなの結果を招いている。

 と、書いているだけで心底ウンザリしてくるが(上記はすべて筆者の体験です)、前々から、ちょっと気になっている「解決法」がある。

 それは、ビジネス書の一ジャンルとして定着した感のある「科学アプローチの自己啓発書」だ。

 「イメージすれば現実になる」でも「素手で便器を磨け」でもない。そんな胡散臭いものではなく、脳科学や行動心理学などの最新科学の成果を使えば、新薬で不治の病が克服されるように、「行動できない」が治せるのではないか?

 社会の未来と個人の将来の悪夢を避けるために、3冊の「科学系・自己啓発書」を一気読みしてみた。

「進化の遅れ」と「誘惑社会」が先延ばしを招いている

 トップバッターは、翻訳書の『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』。カナダのビジネススクールで、神経生物学と心理学、脳科学を駆使したモチベーション理論を教えている教授が書いた本だ。タイトルを見れば、一刻も早く「で、先延ばしの原因は?」と聞きたくなるだろうから、最初にざっくり書いておこう。

 人間の脳の行動を司る回路には、「辺縁系」と「前頭前野」がある。「辺縁系」は、進化の初期で登場し、動物と変わらない衝動的な行動を促す。一方、進化の後の方にできた「前頭前野」は、計画的で長期的な行動を司っている。先延ばしは、「辺縁系」が「前頭前野」を上回るときに起こるという。

 だから、先延ばしを防ぎたければ、本能丸出しの獣の思考回路「辺縁系」を「前頭前野」の理性の力でねじ伏せればいい。

 前頭前野の「〆切に間に合うよう、早くやれ!」「待て! 今はよくても後で後悔するぞ」という声を自分にかければ、仕事中にネットを見て時間を浪費してしまったり、夜中にラーメンを食ってしまうことは防げるのだ!

 やった、これで克服できる! バンザーイ……なのか?
 いや、それが難しいから、先延ばしは克服できないのだ。
 そして、その理由は、「前頭前野」が弱いからだけではないと、著者は言う。
 人間がほかの動物に比べてすぐれた自己コントロール能力を持っているといっても、誘惑の多い現代社会で生きるには十分でない。スーパーマーケットや冷蔵庫がない時代であれば、私たちに備わっている忍耐力で十分だった。動物を狩ったり、木の実を集めたりしていた時代には、それで事足りた。しかし私たちの忍耐力は、今日の社会で必要とされるレベルに及ばない。
 先延ばしは、現代の人類に必要な進化がまだ起きていない結果として発生する現象と言える。(ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか/P.84 ※太字強調は引用者によるもの。以下引用部も同じ)

 ネットやテレビはおろか、本すらもほとんどなかった古代エジプトやギリシャでも先延ばしの害が嘆かれていた。だから、コンビニのレジでフライドチキンが買えたり、ネットでエロ動画が見られるような現代社会では、もともと備わった「前頭前野の忍耐力」が役に立たないのも当たり前だ、と。

 では、どうやって「辺縁系」を封じ込め、「前頭前野」を強化すればいいのか。

 本書では、課題の退屈さや失敗の恐れ、誘惑を乗り越える13の行動プランが示される。

 具体的には、「課題達成後のご褒美リストをつくる」「スマートフォンの電池を抜く」など。正直、それほど意外なものはなかったが、すぐにできそうな方法が多いのはありがたい。

 筆者も本書にならって、思い切ってパソコンから「お気に入り」を全部消してみた。すると、無意識にニュースをチェックしたりしなくなるので、確かに仕事がはかどるようになった。ただ2、3日もすると、また「お気に入り」が充実してきたのだが……。

変化を無条件で避けようとする「古い脳」

 この「脳の進化が現代社会に追いついていない」という話は、2冊目の『人はなぜ「死んだ馬」に乗り続けるのか?』でもよく出てくる。

 本書はドイツの心理コンサルタントが書いた原書の翻訳版。転職や新天地での生活をするべきかどうか、うじうじ悩んだり、新しいことがしたいのに具体的な行動をできない人たちをコーチングで導いた経験を題材に、「心の慣性の法則」を乗り越えて、自分の理想の人生を歩めるようになるためのテクニックが語られる。

 さて、こちらで出てくる「古い脳」の話は、『ヒトはなぜ先延ばしをするのか』のような「現代社会の誘惑に勝てない」という意味ではない。「変化を無条件で嫌う」という性質のことだ。

 たとえば、「このつまらない会社を辞めて、カフェのオーナーになりたい」という夢があっても、ほとんどの人は、「一文無しになって路頭に迷う」とか「失敗したら破滅するぞ」とか、思いなおして、暗い顔で会社に居続けるだろう。

 しかし、これこそ筆者によれば「死んだ馬に乗り続ける心理」なのだ。
 冷静に考えてみれば、そんなリスクは(絶対ないとは言いませんが)ものすごく低いはずですよね?
 こんなふうにリスクを過大評価する習性がこれまで何千年ものあいだ、生命を維持するのに役立ってきました。かつては、命の危険を回避することが、新しいものを発見することよりも、はるかに重要でした。
 でも、それは過去の話。
 現代社会において——少なくとも仕事とか転職とかの文脈で——生命に関わる危険がどれだけあるというのでしょう?
 でも残念なことに、人の脳は、この「新しい」状況にまだ適応できていないのです。(人はなぜ「死んだ馬」に乗り続けるのか?/P.82)

 仕事や人生で新しいことをやるときに、なんとなく感じる「恐れ」は、かつてヒトが猛獣や毒蛇が潜むジャングルに分け入るときに感じていた「恐れ」と同じなのだという。

 そう考えれば、「自分にそんな能力はない」とか「失敗したらキャリアが終わるかも」とか不安に思うことは、アスファルトの上で虎や蛇を恐れているのと同じことになる。バカバカしい思い込みだろう。

 本能的な恐れさえ克服さえすれば、急激に変化していく社会に対応して、理想の人生を歩めるのだ、と。

 自分の可能性が一気に広がる……ような気もする。

感情は「言葉の使い方」でコントロールできる

 ヒトの脳は誘惑に太刀打ちできず、変化を無条件で恐れる。そんなわけで頼りにならないことはよくわかった。

 しかし、これだけでは「行動できない」が非合理であることがわかっただけで、「行動したい」にはならない。もっとこう、読むだけでガラリと目の色が変わって、やる気が湧いてくるような、自己啓発書の醍醐味を味わわせてくれる本はないか?

 と、手に取ったのが、「世界NO.1コーチ、アンソニー・ロビンズ『直伝』トレーナー」という肩書きを持つ池田貴将氏の『動きたくて眠れなくなる。』だ。

 心理コーチングの専門家だけあって、以下のような「感情のコントロール」に焦点を当てたテンションの高い記述が多い。
感情は「眠い」とか「お腹が空いた」というのと同じように、脳の中で起きているただの化学反応だから、自分の意志でコントロールすることができる。そして法則をつかんでしまえば、その力を活用することができる。あなたがのぞむ方向へと、あなた自身をどんどん動かすために。(動きたくて眠れなくなる。/P.5)

 普通は「やりたくない」と思うから「やらない」。しかし、「やりたくない」の感情を自分の意志で「やりたい」に変えれば、進んでやるようになるだろう。

 では感情を変えるために、どうすればいいのか。
 本書で繰り返し大事だと言われるのは、言葉の使い方だ。
ふだんから尊敬する人がよく使う言葉をマネてみよう。「面倒くさい」「腹が立つ」「ダメだ」というかわりに「いいね」「大丈夫」「ありがたい」などの言葉を使ってみよう。新しい言葉づかいの積み重ねが新しい経験を作ってくれる。
 言葉の力はすごい。
 たったひとつの言葉で人を癒すこともできれば、傷つけることもできる。
 他人だけではなく、自分自身までも。だから気をつけた方がいい。
 どんな言葉を使うと感情のスイッチが切れるのか、入るのか。(動きたくて眠れなくなる。/P.148)

 アスリートや格闘技の選手が、「私は勝てる」「おれは強い」といって自分を鼓舞するのはよく知られている。それと同じように、自分にかける言葉によって、「(失敗しそうだから)やりたくない」「(退屈だから)先延ばししたい」という、「回路」を修正できるかもしれない。

 言葉は『ヒトはなぜ先延ばしするのか』でも、科学的に語られている。
 心理学者のピーター・ゴルウィッツアーによれば、ほぼどのような行動でも、その行動を取るという意図を言葉にすれば、実際に行動する確率が二倍近くに高まるという。(中略)このテクニックは、先延ばしに限らず、自己コントロール全般に応用できる。スタミナ不足の人は「疲れても頑張る」という意図を言葉にしてみる。気が散りやすい人は、「集中力が途切れても、課題に集中する」という意図を言葉にする。(ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか/P.260)

 口にするだけならタダだし労力もかからない。とりあえず「家に帰ったら脇目もふらずに原稿を書く」と、心にもないことを言ってみよう。「声に出して言う」ということはすでに行動なのだから。

「古い脳」との終わりなき戦いの覚悟を決めよう

 さて、今回の本はどれもノウハウ書だから、紹介されているテクニックを挙げていくとキリがない。しかし、どの本でも共通して、行動するための秘訣として強調されている究極のポイントはある。

 それは、「とにかく続ける」ということだ。
 なんでも、はじめは小さな行動から。
「やっぱり掃除は嫌いだ」と言って片付けをさぼったら、掃除がもっと苦手になる。でもたとえ心がこもっていなくてもいいから「掃除は大好きだ」と言った後、目に付いたゴミを一つ拾う。玄関の靴を揃えてみる。それだけで変わり始めるということだ。(動きたくて眠れなくなる。/P.161)

 ついに「靴を揃えろ」が出た! と言うのは待ってほしい、習慣になるまで続けるというのは、脳科学的にも王道なのだから。

 『人はなぜ「死んだ馬」に乗り続けるのか?』の著者は、「“人間の思考パターンや行動パターンが同じ”というのは、車でいつも同じ道を走っているようなもの」という神経生理学者の話を紹介している。

 いつもの同じルートを運転していると、たまたま買い物があって脇道に入る必要があるときでも、ついウッカリ通り過ぎてしまう。しかし、特別の注意を払って脇道に入ることを繰り返せば、そのうち、そのパターンは脳にすり込まれ、特別な気構えはいらなくなる。これは、誰でも身に覚えがあるだろう。
大切なのは、そうできるようになるまで、脳をトレーニングし続けることなんです。
要するに、どれだけすばらしい決意であろうと、新しい考えであろうと、それだけではダメだということです。(人はなぜ「死んだ馬」に乗り続けるのか?/P.150)

 ダメ押しに『ヒトはなぜ先延ばしするのか』からも引いておこう
習慣は繰り返せば繰り返すほど、強力になる。逆に言えば、習慣を破るたびに、習慣の力が強まり、次の機会に習慣を貫くことが難しくなる。あなたが習慣を守れば、いずれ習慣があなたを守ってくれる。(ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか/P.260)

 日ごろのささいな行動が、いつしか強大な習慣に育ち、自分の人生そのものを左右するのだ。だから、ささいなことでもないがしろにしてはならない、と。

 最新の科学の成果を学んだはずが、ずいぶん古典的な結論になってしまった気もするが、これこそ、科学的に言えば「誘惑に弱く変化を嫌う脳の生理に逆らう」ということなのだろう。

 一行でも書くか、まったく机に向かわないか。
 玄関の靴を揃えるか、脱ぎ散らかすか。
 カップにミルクを先に注ぐか、紅茶を先に注ぐか。

 いざというとき「果敢に決めて行動する」。そのために必要なのは、その場の強い意志や感情コントロールだけではない。日ごろの一挙手一投足、あらゆるものごとへの自分の反応の積み重ね、自分のルールを守った体験が効いてくる。

 脳との闘いは、長期戦なのだ。

 だから何度か誘惑に負けたり、決めた通りにできなくても、いちいち嘆き悲しむことはないだろう。大事なのは、勝てるようになるまで闘い続ける意志だ。
 「お気に入り」は何度でも削除してやろうと思う。

■これだけは押さえておく3冊の要点

『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』
●先延ばしは脳の仕組みとして必然。対策はそれを認めることから始まる
●先延ばしには「失敗が怖い」「課題が退屈」「誘惑に弱い」の3タイプがある
●本書にある対策を根気よく打ち続けるという「心構え」が大事
【こんな人におすすめ】
→「先延ばし本」として文句なしの名作。さまざまなタイプの人への解決策がたくさん提案されている。

『人はなぜ「死んだ馬」に乗り続けるのか?』
●できないのを状況のせいにせず、自分の可能性を信じる
●能力のない人などいない。誰でも人よりすぐれている部分がある
●変化を嫌う内なる声に対抗するには、紙に書いて考えるのが有効
【こんな人におすすめ】
→「行動できない」という人の中でも「失敗が怖い」「変化が怖い」というタイプの人に。

『動きたくて眠れなくなる。』
●どんな立派な人でも不安やプレッシャーを感じる。違うのはその意味づけ
●言葉の使い方、意識の向け方、体の使い方ひとつでも、感情はコントロールできる
●今日が人生最後の一日だと思って生きる
【こんな人におすすめ】
→手っ取り早くポジティブになりたいなら読んでみよう。

[BizCOLLEGE]

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Posted by nob : 2013年08月12日 14:53