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新たな日本の進むべき途の一つ(拍手っ)。。。

■「世界初」の浮かぶ風車が回りだす
日本の眠れる資源がエネルギーを変える
山根 小雪

 本日、11月11日は日本の再生可能エネルギーの歴史に、新たな1ページが加わる日だ。

 震災後に突如、持ち上がった「福島県沖浮体式洋上風力」が、いよいよ運転を開始する。本日11時ごろに、小名浜港沖20kmほどのところに浮かぶ風車が回りだし、陸上へと電力を送り始める。

 浮体式洋上風力とは、その名の通り、海の上にプカプカと浮かぶ風車のこと。巨大なチェーンを巧みに係留させることで、風速70mの風が吹いても耐えられる。実際、超大型台風が建設中の浮体式風車の近くを通過したが、びくともしなかった。福島県の地元放送局は、台風中継の際に、驚きをもって風車の無事を伝えたという。

 建設当初からの様子は、連載「実録・福島沖巨大風車プロジェクト」でご紹介してきた。丸紅を筆頭に、三井造船や三菱重工業、日立製作所や新日鉄住金、ジャパンマリンユナイテッドなど、11社の企業がコンソーシアムを組成し、このビッグプロジェクトを進めてきた。

 このプロジェクトの話を初めて聞いたのは、2011年9月ごろのことだった。東京電力福島第1原子力発電所事故が起きて、半年ほどが経ったころだ。反原発のムーブメントが高まり、「原発代替は再生可能エネルギーだ」と叫ばれていた時期だ。

 「原発事故からの復興の象徴として、福島県沖に世界初の浮体式風力のウインド・ファームを作る」。ある取材先から、こう聞かされたとき、正直なところ「それはいくらなんでも無理なんじゃないか」と思った。

 風車の世界には、導入の順序がある。まずは陸上の風のよく吹くところに建てる。陸上風車の建設が進み、陸上で風況の良い適地が減ってきたら、着床式の洋上風力へと移行していく。遠浅の海の海底に風車を直接、固定するタイプのもので、欧州をはじめ世界各国で実績がある。

「トンデモ話」にしか聞こえなかった2年前

 当時の日本は、今以上に「再生可能エネルギー後進国」だった。エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合はわずか1%。昨年7月にスタートした「固定価格買い取り制度」によって、少しずつ上積みしているとはいっても、まだたかがしれている。当時は、菅直人元首相が「私を辞めさせたいなら再生可能エネルギー法案を早く通したほうがいい」と発言していた。

 まだ日本で本格的に再生可能エネルギーが普及するかどうかもわからない。風力発電については、陸上ですら苦戦していた。着床式は、沿岸からわずか50mほど離れた、陸上風力に毛が生えたような洋上風力が稼働していたぐらいだった。

 浮体式に至っては、世界を見渡しても、「お試しで1本建ててみました」というレベルのものしか存在しない。それなのに、福島県沖には、浮かぶ風車を1本ではなく、複数本建ててウインドファームにするという。

 このプロジェクトの話が出てきた当時、「着床式すら離陸していないのに、浮体式なんて突飛すぎる」と思ったのは、私だけではなかっただろう。

 これまで日本の再生可能エネルギーの導入スピードを見ていたら、「いったい何年かかるだろう」と思わざるを得なかった。「2013年秋の運転開始」というスケジュールが、荒唐無稽に感じたほどだ。

 ところが、悲観的な予想は見事に裏切られた。「ふくしま未来」と名づけた浮かぶ風車と、「ふくしま絆」という浮かぶ変電所は、構想開始からわずか2年で、本当に運転を開始する。

 このスピードは、通常の商用プロジェクトと比較しても、相当早い。陸上のウインドファームでも、運転開始までには3〜10年かかるのが普通だ。だが、今回のプロジェクトは「復興のシンボルにするために早く」「世界最速で実現するために早く」と、加速し続けた。

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福島県沖に浮かぶ風車は三井造船・市原事業所で組み立てたのち、東京湾を曳航して小名浜港に向かった。写真は6月に、三井造船・市原事業所で進水する直前の様子(撮影:的野弘路)

次なる産業の芽に

 この超短期、超大型プロジェクトを牽引し続けたのは、「復興のシンボルに」と異例の巨額予算を付けた資源エネルギー庁と、プロジェクトを統括した丸紅だ。

 プロジェクトマネージャーを務める福田知史・国内電力プロジェクト部長は、入社以来、海外で数々の電力ビジネスを手掛けてきた人物。東日本大震災の直前に、日本に帰任したばかりだった。電力ビジネスには精通しているが、国内の電力市場の常識とは無縁だった。

 プロジェクトの開始当初、「そんな短期間では無理」という声がそこかしこから聞こえてきた。日本の国家プロジェクトの通常のスキームならば、まずは技術開発に数年をかけ、実際に建設するのはそのあとだ。ところが今回は、いきなり福島県沖に浮体式のウインドファームを建てるというのだから、その驚きは想像に難くない。

 結果として、コストも想定を上回った。「誰もやったことがないプロジェクトを、ごく短期間で動かすために必死でコストを積み上げた。だが、想定していなかった事態が発生し、補助金の枠内で収まらなかった部分もある」と丸紅の福田部長は認める。

 簡単な道のりではなかったが、構想から2年で本当に浮体式風車は運転を始める。参加企業にとっては、体験したことのないスピードで全く新しい風車を作り、海に浮かべ、陸上と送電線をつないだ。この経験は、将来の新市場への「入場券」を買ったようなものだろう。

 たとえば、浮体式風力に鋼材を供給した新日鉄住金は、「浮体式風力で当社の鋼材が使えるという実績がほしかった。浮体用の鋼材の仕様を決める際に有利になる」と明かす。

 福島県沖浮体式風力は、国がコストのほとんどを負担する国家プロジェクトだ。しかし、福田部長の視線の先には、浮体式ウインドファームの事業化がある。

 国土を海に囲まれた日本にとって、海上の風は眠れる資源。遠浅が続く欧州なら着床式に大きな市場性があるが、沿岸からすぐに深くなる日本の地形には、必ず浮体式が必要な時期が来るという確信がある。

 浮体式という未来の技術を使ったプロジェクトに対して、「巨額の補助金のムダ使いではないか」という批判もある。だが、日本が震災後の異常事態の中で、大きな一歩を踏み出したことは、きっと近い将来、正しかったという判断が下されるはずだ。

 欧州や米国は、日本が福島県沖に浮体式ウインドファームを建設すると発表した直後には、浮体式に巨額の助成金を拠出する方針を固めている。この事実は、再生可能エネルギーは激しいグローバル競争の渦中にあり、世界各国が次なる産業の芽として注目している分野であることの表れだろう。

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2013年11月14日 07:23