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遅きに失するも、まずは東電を破綻処理、国が前面に出て事故のすべてに責任を負うことから。。。

■東電処理にも企業再生の大原則を貫け 
~金融庁の新指針に見る今後の企業再生

 東日本大震災で直接間接の被害を受けた企業はもちろん、経営不振企業の再生一般について、4月以降、いくつかの動きがあった。留意すべき点について、まとめてみたい。

原理原則を外しつつある政府方針

 地震と津波による原発事故に遭った東京電力の賠償負担について、様々な素案が観測気球気味に新聞で報じられている。また、工場や家屋を失った結果、再建にあたって二重ローンを抱えることになる企業や個人の救済についても同様である。筆者はこれら観測記事について現時点で詳細に論評するのは時期尚早だと思っているが、一つだけ気になることは、世に示されたこれら素案なるものが、原理原則を外れて巧妙に既得権益側に利益誘導されつつあるように見えることである。

 企業再生の大前提たる原理原則は、法に従って費用負担が発生することであり、それはリスクを取った者が利益も損失も負担するという経済原則でもある。通常の企業再生であれば、まず債務者が極限までの固定費削減を行なう。JALの例でも明らかなように、多くの企業再生においては社員のOBにまで年金カットなどの負担をお願いすることさえ普通である。そこまでやってなお負債(賠償金を含む)が賄えない場合、株主→一般債権者→担保付債権者→優先債権者の順に負担が発生し、それでもなお負債が資産を上回る場合に初めて資本注入なり利益補填なりが行なわれるのが原理原則というものである。しかも、その場合の資本注入も、国の資金ではなく、可能な限り民間の資金(たとえば企業再生ファンドや、他の事業会社)などからなされるべきなのだ。

 ところが、東電の処理にせよ、二重債務者の問題にせよ、まず国民負担(税金の投入や電力料金上げ)によって債務者を救ってしまうような議論が先行し、本来コストを負担すべき者(社員・株主・債権者)たちの責任が棚上げされているように思われる。

 たとえば、二重債務者の方々は不運であり、人生の再建のためには、債務負担の軽減は必須である。しかし、それは一義的には回収不能債権として銀行がコスト負担すべき問題であり、それを抜きにして被災者の方々に国がお金を出し、結果的に納税者のお金で銀行を救うということであってはならない。

 仮に銀行が多額の債権放棄の結果として、固定費削減などの自助努力をしてもそのコストを賄えずに資本不足になるのであれば、その時に銀行が何らかの手段で資本増強を行なうべきなのだ(但し、仮にその際に国が資本注入をするとしても、被災地の銀行の経営者に対しては経営責任は問えない)。原理原則を踏まえない企業再生や復興支援策が続々と出てくる裏側には、既得権益側と政治・官僚の癒着があると取られても仕方があるまい。

 以上が筆者の基本的な考え方であるが、もちろん、世の中の物事をうまく動かすためには、時に若干の例外措置や工夫が要ることもあるだろう。ただ、仮にそうだとしても、もともとの原理原則をうやむやにしたまま国民負担を強いるのは、後世に悪しき前例を残さないために止めたほうがいいと考える。仮に原理原則から外れた例外措置を取るのであれば、何故それが必要なのかを国民に明確に説明した方が長い目で見れば結局は当事者のためだ。

金融庁の新監督指針について

 こうした中、4月4日付で金融庁から少々長い名前の監督指針が公表された。「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律に基づく金融監督に関する指針(コンサルティング機能の発揮にあたり金融機関が果たすべき具体的役割)」というものがそれだ。長い名前の前半部分は、いわゆる亀井法案とも言われ、平成21年12月に施行された通称「中小企業金融円滑化法」のことである。この法律はもともと23年3月までの時限立法であったが、これが更に延長されることとなったために、金融庁が新たに監督指針を出したものだ。

 金融円滑化法の下では、金融機関は中小企業や住宅ローンの借り手などから申し出があれば出来る限り貸付条件の変更に応じることが求められ、金融庁もマニュアルを変更して、こうした条件変更があった債務者を不良債権に分類しなくてもよいという措置を取った。しかし、この法案には当初から幾つかの問題点が指摘されていた。特に、返済に窮する債務者からの返済猶予の申し出を受け、それが一時的に不良債権化しなかったとしても、十分合理性のある再建計画がない場合、それで債務者の信用力が改善するはずがなく、単に「隠れ不良債権」を抱え込むことになるのではないかという懸念は多くの金融機関に共有されていた。

 また、債務者には返済猶予を受けられるというモラルハザードが発生するとも言われていた。法の施行後1年3ヶ月の間に、こうした懸念が一部現実のものとなりつつあった中で、今回の震災が起きたのである。そこで、金融庁の新たな監督指針では、同法に基づいて中小企業者等に対応する金融機関には、これら事業者等に対する適切なコンサルティング機能の発揮を期待し、最適な解決策(ソリューション)を提案することを求めることになったのである。

 この指針には、大きく2つの側面がある。一つは、「債務者の事業の持続可能性を見極めるべき」というものであり、もう一つは「外部専門家・外部機関等との連携も視野に入れてコンサルティング機能を整えるべき」というものである。

 まず、事業の持続可能性の見極めにおいては、「経営改善が必要な債務者」「事業再生や業種転換が必要な債務者」「事業の持続可能性が見込めない債務者」の3類型に応じたソリューション提案と、外部専門家・外部機関等との連携のあり方を例示している。

 はじめの類型、「経営改善が必要な債務者」とは、M&Aや販路の開拓等の支援によって自力で経営改善できる債務者のことであり、金融機関は貸付条件の変更等を行ないつつ、中小企業診断士・税理士・地公体・商工会議所などと連携してビジネスマッチングを行なうことなどが期待されている。

 2番目の類型、「事業再生や業種転換が必要な債務者」とは、従来からある典型的な企業再生案件であり、金融機関も条件変更のほか、DES(債務の株式化)・DDS(債務の組み替え)・債権放棄などの痛みを取りつつ、企業再生ファンドや中小企業再生支援協議会などとの連携で企業の財務内容や収益力を強化しようとするものである。

 3番目の類型、「事業の持続可能性が見込まれない債務者」とは、要するに事業としては再生の見込みが薄い債務者に対して、債務整理を伴う転廃業を前提とした債務者の再起の支援を行なうもので、サービサー会社との連携などが期待されている。

 長年企業再生に取り組んできた筆者の経験から言っても、今回の指針は妥当なものだ。特に、上記類型の2番目と3番目の債務者に関しては、2番目が再生型、3番目が清算型であるとの違いはあるが、これまでも企業再生ファンドが多数の投資実績を積み上げてきた分野である。

 再生型の場合は、冒頭で述べた原理原則に従い、まずは債務者自身が固定費の削減など身を切る努力をし、次に株主責任が問われ、その次に債権者である金融機関もある程度の痛みを取った上で、企業再生ファンドなどのスポンサーが再生のための資本の注入と再生ノウハウの提供を行なう。これによって、財務の健全性が確保された企業が、新スポンサーの指導の下で経営の効率化や海外進出などの成長戦略を練ることが可能になる。これは、長い目で見れば、金融機関にとっても合理性がある取引である。なお、金融機関が取る痛みにも色々なものがあり、必ずしも債権放棄だけではなく、場合によっては再生期間中の残高維持などもその一つの形態になり得るというのが筆者の経験である。

 また、清算型の場合、金融機関が直接債務免除をすると他の債務者との平等性に問題があるケースが多い上、開示債権の減少にも繋がらない。そういう場合に、企業再生ファンドが貸付債権を時価で買い取った上、債務者と協議しながら適切なレベルまでの返済が出来るように経営指導していくことにより、金融機関は債権売却損(損金)を建てて開示債権を減らせるほか、債務者ないしその経営者は時間をかけて再生ないし再チャレンジを達成することができる。本来、金融機関の資産査定の結果導き出され、貸倒れ引当て済みの貸付債権の時価と企業再生ファンドによる買取の時価が大きく乖離しているとは考えにくく、金融機関側に発生する追加損失は限られたものになるのが通例であるが、仮にそうでない場合でも、様々な工夫の余地がある。

 筆者は銀行・企業再生ファンドの両方に長年在籍し、世界の企業再生の現場を数多く経験してきたが、こうした企業再生に向けたソリューションのうち、金融機関が単独で成し遂げられるものは非常に少ないのが現実である(単なる債権放棄で済むようなものだけである)。とりわけ、法的制約からも銀行員の経験値的にも、エクイティ(資本)出資と、それを背景としてハンズオンでの経営関与を伴う企業再生のスキーム構築は銀行には絶対にできないし、やるべきことでもない。過去の連載で何度も述べているように、金融機関自体が債務者企業に資本を注入するとか、金融機関自身が企業再生ファンドを運営したり、ファンド運営に直接間接の影響力を持ったりすることは自らの債権保全と投資家利益との間の明白な利益相反行為であるばかりでなく、いわば独禁法の潜脱行為でもあり、法の抜け道を突くような「禁じ手」である。また金融機関自身の経営リスクを増すことにもなるので、金融機関がファンドを経営することを禁ずるのは世界の潮流であることも、連載第3回で述べた通りである。しかし残念なことに、これが日本において未だに容認される例があることも、日本で企業再生の原理原則が守られていない点の一つである。

 企業再生の大原則と金融庁の新指針に基づき、金融機関が独立系の企業再生ファンドなど外部機関との連携を強化することによって早急に企業の再生支援がなされていくことが、震災後の日本においては一層重要になってくるだろう。そのためにも、独立系企業再生ファンドへの資金の出し手の多様化を実現する政策は、現在最も重要度が高い国策と言っても過言ではあるまい。

[DIAMOND online]

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Posted by nob : 2013年11月22日 09:18