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彼の真意がどこにあれども、、、脱原発への影響力に期待。。。Vol.17

■小泉元首相「原発即ゼロ」発言の波紋~なぜ「今決断すべき」なのか!?

 小泉純一郎元首相の「原発即ゼロ」発言が波紋を呼んでいる。11月12日午後、日本記者クラブで1時間半に渡ってスピーチした小泉元首相は、原発の停止時期を問われて、「即ゼロ」と即答した。

 これまで自民党の石破茂幹事長が、先般からの小泉元首相の「原発ゼロ」発言について、「小泉さんも原発を将来的に停止するといっているだけで、今すぐ止めろとは言っていない。その意味では、小泉さんも自民党の考えも同じだ」と答えていたが、それを根こそぎひっくり返した形だ。

 今回の記者会見の極めつけは、「安倍総理として、いかに国民から与えられた権力を望ましいあるべき姿に向かって使うか。こんな運のいい総理いないですよ。使うと思えば、使えるんですよ。総理が決断すればね、今の原発ゼロ反対論者も黙っちゃいますよ。自民党の中で」と総理の絶対的権限を強調し、安倍首相に決断を迫った点だろう。

 さらに具体的な道筋として、「石破幹事長が音頭をとって、これからのエネルギー政策、原発含めてね、議論しようというふうに党内ですれば、賛否両論出ますよ。そして、賛否両論、これを総理にあげていけばいいんですよ」「安倍さんが判断しやすいような環境をつくっていけばいい」と、党内派閥とは一線を画す石破幹事長が音頭をとって進めるべきと促した。

 その一方で小泉元首相が、政治の表舞台から姿を消していた細川護煕元首相との連携を図っていることも明らかになった。アベノミクスの実行が正念場となる安倍政権に、これまで楽観的ともいえた原発問題への対応を即座に判断すべきという決断を突きつけた格好だ。

なぜ今、小泉元首相は「原発ゼロ」発言を繰り返すのか

 ではなぜ今、小泉元首相はこうした原発ゼロ発言を繰り返すのか。それには、政治的な思惑とは別に、いまだ明確な方向性を示せない日本のエネルギー政策に対する危機感があるのは確かだ。

 経済産業省の総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長も務めた経験のある東京工業大学特命教授の柏木孝夫氏は、今、日本のエネルギー基本計画の議論が大詰めを迎えているという。

 エネルギー基本計画の策定に向けて議論する、経済産業省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の第7回会合が、10月16日に開催された。この回の議題は、「今後の原子力政策について」で、原子力事故への備えの充実や高レベル放射性廃棄物の問題解決への取組みなど7つの課題について議論が行われた。

 柏木氏は、「原発ゼロを目指すのであれば、新たな人材は集まりにくく、育ちにくい。世界最高レベルの技術を継承できなくなってしまう」という。ゆえに「新たなエネルギー基本計画は、安定供給および成長戦略の観点から、あらゆる政策を盛り込む方向に進みそうである」という。

 福島第1原発事故を踏まえて改正した原子炉等規制法は、原則として40年以上の運転を認めていない。しかし会合では、なし崩し的に原発の新増設や寿命延長を認めるべきという声が相次いだ。政治が主導権を握らないまま、官僚や原発関連企業の思惑が先行して、日本のエネルギー政策の方向が決められようとしているのだ。

 なぜ今、小泉元首相がこうした議論をあえて展開するのか、という問いへの答えは、そのあたりにもありそうだ。

崩れ去った安全神話の上でなぜ議論するのか

 経済産業省が進めているエネルギー基本計画の原発の安全性議論については、やはり危惧を抱かないわけにはいかない。ジャーナリストの松浦晋也氏は、旧原子力安全・保安院のページ公開されている地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループ議事録から、驚くべき議論があったことを紹介している。

 津波の危険性は震災の1年8カ月前に指摘されていたにも関わらず、東京電力の根拠のない安全神話によって、その指摘が無視され、結果として福島第一原発の事故が、必然的に引き起こされた様が、克明に描かれている。

 このレポートを読めば、日本ではまだ安全性をコントロールするノウハウが確立されていないことがよく分かる。それなのに、安倍首相は、原発輸出にやっきになっている。

 日本の原発プロジェクトへの不信感、原発輸出への違和感を多くの国民が感じている。小泉元首相は、こうした極めて当たり前の国民感情を巧みにすくい上げたわけだ。

ノウハウ積む脱原発先進国ドイツ

 いまだ方向性のはっきりしない日本に対し、明確に原発ゼロを打ち出しているドイツは課題を抱えながらも着実に前に進んでいる。

 ドイツ政府は2009年1月より、固定価格買い取り制度(FIT:Feed in Tariff)を改正して、再エネ発電を直接電力取引市場(Direct Marketing)で販売できるようにした。再エネ発電は、FITにより、20年間固定の有利な価格で送配電事業者に引き取ってもらえるが、直接市場に販売することも選択できるようになった。

 しかし、通常はFITよりも市場価格の方が低いので、市場販売はあまり選択されなかったため、2012年1月には、「マーケット・プレミアム」が導入。これによって直接の市場取引を選びやすくなったという。

 どのような投資が最適かの判断は、容易ではない。電力取引市場、地域の電力や熱の需要、地域の天候予想など多くの変動要因が絡むため、そのノウハウが鍵を握るわけだ。ドイツは、スマートグリッド実証実験「E-Energy」でこうしたノウハウを積んでいるのだ。

正しい政策は国民が支持する

 もっとも「脱原発」の先を行くドイツでもいくつかの課題に直面している。中でもやり玉に挙がっているのが再生可能エネルギーのコスト問題だ。

 10月11日には、欧州の大手電力10社のCEO(最高経営責任者)がずらりと顔を揃えて会見を開き、「再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)は廃止すべき」と訴えた。FITによる負担増が経営を圧迫しているというわけだ。

 これは日本でも再生エネルギー議論をする際にバッシングされるポイントの一つだ。

 だが、欧州の電力会社がこぞってFIT廃止を求めているからといって、制度そのものが失敗かと言えば、そうではないという。電力会社に代わって、再エネを手かげる事業者たちで、FITの追い風に乗って電力市場での存在感を高めつつあるからだ。2005年のドイツの電力市場は、大手電力4社が約80%のシェアを占めていたが、2011年にはこれが約70%にまで下落したという。

 電力会社がFITへの反発を強める半面、多くの国民は再エネ導入を推進することに理解を示している。ドイツの消費者団体VZBVが今年実施した調査では、82%のドイツ人が再エネに舵を斬ったエネルギー政策は正しいと答えている。

 日本でも小泉元首相の「原発ゼロ発言」に対して、6割の国民が支持しているという世論調査も出ている。政府が大きな方針を打ち出せば、民意がそれを支持するという構図はドイツも日本も変わりがない。

「やめること」を決めることはトップにしかできない最大の決断

 小泉元首相の「原発即ゼロ」発言のきっかけは、8月にフィンランドの核廃棄物の最終処分場「オンカロ」を視察して衝撃を受けたことだ。

 「再稼働すると、また核のごみが増えていくわけですよ。再稼働させるといったって、最終処分場見つからないんでしょ。だったら、すぐゼロにした方がいいと思いますよ」というのが小泉元首相の主張だ。

 日本が国を挙げて進めてきた高速増殖炉のプロジェクトもとん挫したままだ。物理学者で技術評論家の桜井淳氏は、日本の原子力開発プロジェクトがなぜ失敗したのかを検証している。「核のゴミ」に対する解はないのだ。

 では、この「原発」にどう決着をつけるのか。

 原発とは直接関係のないマネジメントに関する発言だが、星野リゾート社長の星野佳路氏のこの言葉は含蓄深い。星野氏は、「現場には『やめること』は決められない」という。「顧客満足度や収益などの指標は、やめることによってすぐにメリットが出てこないから、現場はやめるという発想を簡単には正当化できない」からだ。

 だから「『やめること』を決めることが、僕の最後の仕事」と星野氏は言い切る。

 安倍首相にトップの決断を迫った小泉元首相の言葉も、これに通じるものがあるのではないだろうか。

[NIKKEI BP NET]

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Posted by nob : 2013年11月14日 16:38