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彼の真意がどこにあれども、、、脱原発への影響力に期待。。。Vol.29

■都知事選、小泉氏の狙いは「ストップ・ザ・アベ」

田原総一朗

 1月23日告示、2月9日投開票の東京都知事選で、細川護煕(もりひろ)元首相が14日に立候補を表明した。小泉純一郎元首相が支援し、「脱原発」を打ち出して都知事選を戦う。

「舛添楽勝」から一転、白熱戦の様相

 細川さんの名前が浮上するまでは「舛添要一氏が楽勝ではないか」という空気があった。ただ、元厚生労働相の舛添さんは「自民党の歴史的使命は終わった」と言って2010年に自民党を飛び出して新党改革を結成し、除名されている。その舛添さんを自民党が応援するのは相当「ねじれ」た関係である。

 細川さんは14日、小泉さんと約50分の会談を終えた後にツーショットで記者会見を行った。小泉さんは会談で「今日は旧暦で12月4日。赤穂浪士の討ち入りの日だ」と話を切り出したという。小泉さんは「当選のために積極的に頑張りたい」と全面支援を細川さんに約束した。

 細川さんは1993年8月に非自民・非共産の連立政権を首相に就任したが、東京佐川郵便からの借りいれ問題を追及されて9カ月で退陣。その後は陶芸家として余生を送ると思っていたのだが、約20年を経て、突然、都知事選に立候補した。

 これで俄然、都知事選は白熱戦の様相を呈してきた。

小泉流の無茶苦茶な発言

 昨年11月12日、小泉さんは日本記者クラブで会見を行い、そこでの発言が話題を呼んで朝日新聞や毎日新聞、東京新聞などが大きく取り上げた。「脱原発」から踏み込み、小泉さんは「即原発ゼロ」と明言したからだ。

 だが、私は「即原発ゼロ」発言には二つの問題があると考える。小泉さんは、「政治で一番大事なのは方針を示すこと。原発ゼロという方針を出せば、専門家や官僚が必ずいい案を作ってくれる」と語った。しかし、これは責任ある政治家なら決して言わないことであり、無茶苦茶な発言である。これが一つ。

 もう一つは使用済み核燃料の最終処分問題について。小泉さんは、「(処分場選定の)メドを付けるのが政治の責任だと言う。付けられると思う方が楽天的で無責任だ」と発言している。最終処分場は今までずっと見つけられないのだから将来も見つかるはずがない。それをできると考える方こそ無責任。そう小泉さんは言っているのだ。

 使用済み核燃料は日本に約1万9000トンもある。「即原発ゼロ」にしても、この使用済み核燃料の最終処分をしなければならない。だが小泉さんは、この問題については全く触れていない。方針を示すことが政治の役割なら、最終処分のきちんとした方針を示すべきだろう。

美濃部亮吉氏の「ストップ・ザ・サトウ」

 小泉さんは演説がうまい。短い言葉でわかりやすく訴える。だが、その内容に大きな矛盾が含まれていることが多い。細川さんは近々、都知事選での政策を発表するだろうが、「脱原発」後の使用済み核燃料の最終処分問題、代替エネルギーの安定的確保などをどう説明するのか注目したい。

 それ以上の問題もある。「脱原発」といっても、東京に原発があるわけではない。原発による電力の最大の消費地である東京で、「脱原発」を争点にする意味は何か。原発立地地域で「脱原発」を争点にするのはわかりやすい。しかし、東京という地方自治体で、しかも原発電力消費地で原発問題を争点にするのは「ねじれ」があるのではないか。

 ただ、東京都民には東京を地方自治体だと思っている人が少ないようだ。むしろ、「国家」に等しいと思っているのかもしれない。

 1967年から79年まで長く都知事を務めた美濃部亮吉(1904-84)という人がいる。私は美濃部さんによく取材したものだが、71年の都知事選で美濃部さんが掲げたスローガンは「ストップ・ザ・サトウ」だった。

 当時の首相は自民党の佐藤栄作氏である。保守の佐藤政権(1964-72)はベトナム戦争での北爆を支持するなどして左派から反発を買い、長期政権のほころびも次第に大きくなっていた。

小泉氏の「ストップ・ザ・アベ」の狙い

 都知事選という地方自治体の首長選挙で佐藤政権を打倒する「ストップ・ザ・サトウ」と訴えたのは、「ねじれ」というより、むしろ見当はずれとさえ思えた。

 しかし、社会党と共産党に支援された美濃部さんはこのスローガンで360万票以上を獲得して、自民党支援の秦野章氏に圧勝した。都知事選に国政問題を持ち込み、首相を批判して勝利したのである。

 今回の都知事選は、「ストップ・ザ・原発」だけではなく、小泉さんによる「ストップ・ザ・アベ」だと私は受け止めている。それが小泉さんの本心だろう。

 小泉さんは首相時代、安倍晋三氏を最初は官房副長官に起用し、その後、幹事長、官房長官に抜擢した。いってみれば、安倍さんを首相にしたのは小泉さんだ。師弟コンビともいわれる二人だが、小泉さんは今、安倍さんのどこが不満なのか。

 よく言われるのは「即原発ゼロ」発言をめぐる対立だ。小泉さんが「自民党内にも脱原発を唱える人がいる。首相が決断すればできる」と発言したのに対して、安倍さんは「今の段階でゼロを約束するのは無責任」と一蹴した。だから、耳を貸さない安倍首相に揺さぶりをかける、そこに小泉さんの意図がある、というものである。

 しかし、この説にはあまり説得力がないように思う。私は、自民党が一強になり、そのなかで安倍首相の存在感が強まりすぎて、自民党内でもまともな議論が行われなくなっていることに対する小泉さんの不満があるのだと思う。

党内議論が活発に行われていない

 かつての自民党はデパートのようなもので、保守からリベラルまで多様な主義主張があり、党内で活発な議論が行われていた。

 象徴的なできごとは1990年の湾岸戦争のときだ。当時は首相が海部俊樹氏、自民党幹事長は小沢一郎氏だった。湾岸戦争に自衛隊を派遣すべきだとの小沢さんの主張に対して、野中広務氏や古賀誠氏、梶山静六氏らが反対し、結局、自衛隊は派遣されなかった。

 自民党内にはタカ派とハト派がいて、党内議論が常に行われ、うまくバランスがとれていたのである。

 しかし、今は集団的自衛権の問題を見ても、内閣法制局長官をかえて憲法解釈でその行使容認を行おうとしても党内から反論らしい反論は出てこない。原発問題にしても党内議論は活発に行われていない。

 「こんな自民党はダメだ」——。小泉さんはそう憤っているのではないか。小泉さんは自民党内に議論を巻き起こしたいのだ。

 都知事選は、細川・小泉連合の登場で舛添陣営との白熱した戦いになりそうである。

[日経BPネット]

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Posted by nob : 2014年01月25日 09:57