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愚かしさの連鎖、、、他者の否定は廻って自らの否定に、、、否定からは何も生まれない。。。

■徹底討論「嫌韓」なぜ、日本人はそんなに韓国が嫌いなのか 声に出して言いにくい「日本の大問題」

辛淑玉×小針進×安田浩一

朝鮮人を皆殺しにしろ—そんな汚い言葉を、一見「普通の人」が吐き出す時代。いまやブームとして定着した感のある「嫌韓」の実態と、ヘイトスピーチの現場を知る専門家が、議論を交わした。

根深い日本人の「差別意識」

安田 ここ数年、「日本では在日(韓国・朝鮮人)が特権を持っている」「在日が日本のマスコミを支配している」などの根拠のないデマがインターネット上で流され、また韓国を異常なまでにバッシングする「嫌韓」がブームのように広がっています。その拡大は目を覆うばかりです。「在特会」(在日特権を許さない市民の会)を中心にしたヘイトスピーチ(差別扇動表現)が、ネット上に溢れかえっています。

小針 '90年代後半からネットが普及したことと、日本における韓国の存在感が増したことで、ネット右翼いわゆる「ネトウヨ」と呼ばれる人たちの発言が目立つようになってきました。

辛 当初はネットの世界が中心だった「嫌韓」が、今では路上に出てくるようになっています。「チョン死ね」「ゴキブリ朝鮮人を叩き出せ」といった、聞くに堪えないヘイトスピーチや、朝鮮学校や韓国料理店に対する暴力的な嫌がらせが日常的に行われている。レイシズム(人種・民族差別)は、もはや一部の特殊な人たちの問題ではありません。

安田 「朝鮮人を虐殺しろ」—普通に考えれば、とても口に出せないような汚い言葉が、生身の人間に向けて飛ばされている。

辛 私が共同代表を務めているヘイトスピーチに反対する団体「のりこえねっと」には、立ち上げた途端に中傷メールやサイバー攻撃が殺到。サーバーの過負荷状態が発生しました。昨年1年間に全国で起きた差別デモは、分かっているだけで360件以上。毎週のように、日本各地で在日韓国・朝鮮人を標的にした差別デモや組織的な嫌がらせが起きています。

安田 最近のデモを見て思うのは、とにかく参加者が楽しそうなんですよ。引きつった顔で怒りの拳を振りあげているようなイメージは全然ない。

辛 上手にリズムをとりながら「殺せ、殺せ、朝鮮人」と歌ったりしていますよね。

小針 排外的なフレーズが、まるで娯楽感覚ですね。どういう人たちが参加しているんですか?

安田 下は中学生から上は70代まで、老若男女問いません。よく、差別デモに参加するのはフリーターなどの非正規労働者や、若い低所得者だと言われます。私もかつてはそう考え、日常生活への鬱屈した不満が「韓国」や「在日」への罵倒へと転化されていると考えていました。そうした人も少なくありませんが、現状を見ると女性やサラリーマンの姿も目立つ。一見して「普通の人」たちです。あらゆる属性の日本人が差別を楽しんでいる。

小針 ネットが差別や偏見を増幅していくのは、日本も韓国も同じです。アクセス数を稼ぐために扇情的な反日記事を掲載するサイトが、韓国にもたくさんあります。私は、日韓関係の悪化を先導しているのは、政治家とメディアだと思うのです。日韓とも国会議員は票のために、メディアは売り上げのために「嫌韓」「反日」を過激化させています。そしてそれが国民の罵り合いに油を注いでいる。

 特に今、日本のメディアは盛んに「嫌韓」モノを扱っています。韓国大統領の反日的な言動なども背景にあって、「嫌韓」がネトウヨだけではなく、より広く国民に受け入れられている。

安田 しかし韓国で「反日」本が書店の棚を占めるなんてことはないですよ。

辛 韓国や在日への差別が、ブームとして気軽に「消費」されている。しかし「嫌韓」そのものは必ずしも新しい現象ではありません。日本社会は在日韓国・朝鮮人や、韓国・北朝鮮を上から見下す差別意識をずっと持ってきました。

小針 はっきりさせておきたいのですが、韓国あるいは北朝鮮という国家に対する正当な異議申し立てと、在日韓国・朝鮮人への悪質な民族差別とは、区別しなければいけません。

安田 日本に在日がいるのは日韓併合の結果であって、現在の韓国・北朝鮮とは関係ありません。在日への差別は日本の国内問題なのに、なぜか日韓問題、日朝問題だと誤解されています。

辛 結局は在日も韓国も北朝鮮も、日本人は一山いくらで「朝鮮」としか見ていないんです。

「相手が喧嘩を売ってきた」

小針 国家としての韓国批判の中には、なされてしかるべきものもあります。たとえば盧武鉉政権は、'06年の北朝鮮ミサイル実験に際して「日本のように朝っぱらから大騒ぎする必要はない」と声明を出しました。これなどは韓国政府に強く抗議すべき事柄でしょう。

安田 ええ。私も正当な批判ならいくらやってもいいと思います。しかし今の韓国批判は、民族差別とあまりにも強く結びついている。よく韓国の「反日」と日本の「嫌韓」が対比されますが、韓国の「反日」は歴史問題に終始していて、「韓国から日本人を叩き出せ」などという主張とは結びついていません。

ところが日本の「嫌韓」は、韓国・朝鮮人を社会から追放しようとする排外主義に走ってしまう。私は、韓国批判をする前に、日本国内の差別を叩き潰さないと、とも思うのです。

小針 しかし、特に竹島(韓国名「独島」)の領土問題に関して、韓国のメディアがかなり荒唐無稽なことを言っているのは事実です。はっきり言えば日本を軽視し、馬鹿にするような報道も多い。反日をパフォーマンスにする韓国の政治家もいます。こういう状況を放置していいとは思えません。

辛 国籍は関係なく、無知な人はどこにでもいる。例えば、昨年5月、「原爆投下は神の懲罰」と題した韓国の『中央日報』の論説が激しい批判にさらされました。私はこの記事を書いた韓国人記者、口汚く反論した日本人、どっちも最低だと思ったんです。原爆では、たくさんの朝鮮人が犠牲になっています。それなのに、彼らのことなんて誰も思い出しもしない。

安田 『中央日報』はネトウヨレベルの、裏取りをしていない記事が多い。先日も「(福島原発事故で)被曝していない日本女性とつきあう方法」という雑誌記事について紹介していましたが、日本語電子版がリアルタイムで更新されますから、ネトウヨが朝から晩までかじりついて韓国叩きのネタ探しをしています。

辛 今は、簡単にネットで情報にアクセスして、聞きかじりの知識で差別が膨らむようになってしまっています。在日や韓国人と会ったことも喋ったこともない人間による、皮膚感覚でない差別が生まれている。

小針 これまでの差別意識と、今の「嫌韓」はどう違うのか。それを考える必要がありますね。

安田 「嫌韓」を叫ぶ人を取材すると、共通する論理があることに気が付きます。それは、「韓国が反日行動を繰り返している。相手が喧嘩を売ってきているから、それに反応しているんだ」というものです。

辛 それが「嫌韓」の言い訳になる。深く考えることもない受け売りの知識で「韓国が、在日が悪い」と頭ごなしに決めてしまって、嫌いなはずの韓国の「反日」情報を漁っては、ヘイトスピーチを正当化している。そうやって「自信」を持って気持ちよく差別をするようになった。それが今の「嫌韓」ブームなんじゃないかと思います。

気に食わないと「在日認定」

安田 「嫌韓」ブームの背景にあるのは、日本人の韓国に対する意識の変化です。'90年代に韓国は経済成長を遂げ、無視できない国になった。そして、'02年のサッカー日韓W杯と、それに続く韓流ブームによって、日本人の韓国へ抱くイメージは大きく変わりました。

小針 日本人の韓国に対する「眺め」は肯定的な関心が高まっていました。内閣府の世論調査だと、日韓W杯が決まった'96年には「韓国に親しみを感じる」との回答が35%だったのが、'02年には54%、'09年には63%にまで上昇したというデータもあるのですから。

安田 しかし、排外デモの参加者に取材すると、多くの人が日韓W杯で「嫌韓」になったと言うんです。彼らは韓国代表のラフプレーや誤審問題、韓国サポーターの日本への激しいブーイングなどに強い嫌悪感を持ちました。

辛 その段階では、韓国とか在日とか、「よく分からないもの」への漠然とした不安を、ネットで吐き出していただけだった。実際の韓国人や在日へ向けられた、血の通った憎悪ではなかったんですよね。

安田 その意味では、'00年代の韓流ブームは、実際の韓国人や在日と交流し、理解を深めるきっかけになるのではないかと期待を集めました。ところが私が取材した限り、それは限定的なものだった。韓流ドラマやK-POPは、やはり別ものだったんですね。

小針 例えば韓国人俳優やアイドルのファンのように、韓国の文化に触れ親近感を持ち、レイシズムを嫌悪している日本人の中にさえ「それでも韓国は怖い」と言う人が大勢います。

辛 特に'90年代後半から、「外国人のせいで治安が悪化した」などのデマが、政治家やメディアによって盛んに流されたことが「嫌韓」を助長しました。「在日外国人は悪だ、犯罪者だ」と発言することに、日本人が自信を持ってしまった。

'02年には、北朝鮮が日本人拉致を認めたことで「在日はいくら叩いても大丈夫だ」というムードができあがります。拉致が発覚した時には、在日に対する暴行や嫌がらせが1000件以上発生しました。北朝鮮や韓国に文句があるなら、直接彼らに言うべきなのに、在日を攻撃する。

安田 今の「嫌韓」の根底に「韓国、在日は怖い」という意識があります。なぜ怖いかというと、よく知らないし、知ろうともしないから。だから「韓国・朝鮮人はすぐ暴力をふるう」などのデマを信じ込んでしまう。

そして何かの事件の加害者が在日だと、ことさらに大きく反応する。また、気に食わない人間を勝手に在日だと決めつける。「あいつは悪いやつだから在日に違いない」。いわゆる「在日認定」です。

辛 でも本当に怖がっているのは在日の側ですよ。在日が50万~60万人なのに対し、日本人は1億2000万人もいるわけですから。私たちは、日本人から「在日は怖い」と思われていることが怖いんです。日本人が在日を怖がった時に何をするのか、在日はよく記憶していますから。

1923年の関東大震災で多くの朝鮮人が、「朝鮮人が暴動を起こす」というデマを信じた日本人に虐殺されました。生き残った私の祖母は、日本人に追い回されてPTSD(外傷後ストレス障害)になり、死ぬまで治りませんでした。深夜に突然起き出しては、夢遊病のようにうわごとを言いながら部屋をグルグル歩き回るのです。在日社会にはそういう恐怖感が歴史的に蓄積されています。

小針 私はよく「嫌韓」の人たちから韓国を批判する話を聞く機会がありますが、彼らが激しく提議するほどの批判も当然精査している。歴史認識や領土問題についてだって、直接韓国人と面と向かって激しい、緻密な議論をしていますよ。もちろん不愉快な思いをしたことだって何度もあります。

辛 そういう人間的な距離感なしにレッテルを貼って叩き続ければ、あっという間に国際関係も社会も壊れてしまいます。大阪の鶴橋や東京の新大久保といったコリアンタウンに住む日本人も在日も、お互いにいいところも悪いところも見ながら共存してきたわけです。

しかし日韓、また日中友好を唱える人たちが、韓国や中国の顔色を気にしすぎることも問題です。いかにも主体性がない。安倍首相の靖国神社参拝に反対した日本人は、みんな判で押したように「中国や韓国との関係が悪化している時に参拝するのはよくない」と言います。私に言わせれば、日本の問題に中国や韓国を持ち出すのはやめてほしい。日本人である、あなた自身は靖国神社をどうしたいんですか、と問いたい。

小針 その点、「嫌韓」の人は主体性があるとも言える。実は対極にある韓流ファンにも、靖国神社や領土問題の議論で日本の主体性を主張する人が意外と多い。

辛 国家と国家のはざまで生きざるを得ない在日から見れば、領土を巡る言い争いはどっちの側も気持ちが悪い。日韓の間で起きている問題の根源は互いの「無知」です。指導者の変な言動のせいで、相手の国に住む自国民がどれほど不安な思いをするのかさえも分からない。日本に中国人や韓国人がいるように、中国や韓国にも大勢の日本人がいることを忘れています。

小針 全く同感です。だからこそ指導者はあちこちに悪口を吹聴して歩くようなことをするべきではないし、相手の嫌がる行動も慎むべきです。

辛 悪口は相手の目の前で言ったほうがいいんです。

安田 主体性がないのは自称愛国者だって同じですよ。彼らは逆に韓国や在日をこき下ろさないと自分自身の「愛国」を語ることができない。韓国や在日に一言も触れずに自分の「愛国」を語ってみてくれよ、と思います。彼らも韓国や在日を利用して、「愛国」を気取っているんです。

小針 司馬遼太郎も小説で書いていますが、他国を譏るのは「愛国」でもなんでもありません。

「差別デモ、キモい」

辛 今の「嫌韓」、ヘイトスピーチの実態を知らない人、あるいは見て見ぬふりをしている人が無罪だとは言えないと思うのです。日本社会は、一貫して被害者を救済しない社会です。東日本大震災にしてもそう。今なお原発事故の被害は続いているのに、多くの人がもう終わったことにしようとしている。どうやって被災者を助ければいいか分からない。関わったら面倒くさいから、無視している。

安田 レイシズムもその気分の延長にありますね。

辛 問われているのは、弱い者いじめの構造なんです。

希望は、新しいタイプの差別反対運動が出てきたこと。この運動に参加する若い日本人は「朝鮮人のために差別に反対しているわけじゃない」と言い切ります。「可哀想な朝鮮人を助けるため」ではなく、「日本人として差別があるのが嫌だから」運動に参加している。

安田 差別デモへのカウンター運動が爆発的に広がったのは、K-POPファンの女子高生など若い世代のツイッターがきっかけです。彼女たちが何気なく「差別デモ、キモい」などとつぶやいたことで、全く新しい層が運動に引き込まれた側面があります。

辛 差別デモが出てきた当初から、暴力に屈せずプラカードを掲げて戦い続けた人々がいます。その上に新しい運動が出てきた。

安田 日本人として、差別が嫌だ。この考え方を広げられるかどうかが、「嫌韓」という病から解放されるための鍵だと思います。

しん・すご/'59年生まれ。在日3世(韓国籍)の人材育成コンサルタント。「のりこえねっと ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク」共同代表。人権問題に関する著書多数

こはり・すすむ/'63年生まれ。東京外国語大学朝鮮語学科卒業後、在ソウル外務省専門調査員などを経て、静岡県立大学国際関係学部教授。専門は韓国社会論。著書に『韓国人は、こう考えている』他

やすだ・こういち/'64年生まれ。ジャーナリスト。週刊誌記者などを経て'01年よりフリー。事件、労働問題などで取材・執筆活動を続ける。著書に「在特会」を追ったルポルタージュ『ネットと愛国』他

[現代ビジネス]

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Posted by nob : 2014年02月28日 18:06