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あくまで主治医は自分自身、、、自らの生を救えるのは自分自身だけとの覚悟をして初めて、医療スペシャリストたちや家族や友人といったサポーターたちを最大限有効に活用できる。。。

■小林麻央さんも悩んだ、日本のがん医療の「運任せ」な側面

窪田順生:ノンフィクションライター

乳がんで亡くなった小林麻央さんが度々、ブログで触れた「後悔」の思い。「もっと別の治療法があったのではないか」とは、多くのがん患者や家族たちが抱く思いなのだが、そもそも日本のがん医療は、病院や医師によって質のばらつきが大きく、運任せのような側面がある。

ステージ4でも回復する人も
なぜがん患者の明暗が分かれるのか?

 先月、34歳の若さで亡くなった小林麻央さんが闘病中に綴っていたブログは、人々の心にさまざまなメッセージを突きつけた。

 筆者が特に考えさられたのは、4月13日の「浪漫飛行」と題した記述である。

癌だって、ステージ1の時点で診断される人もいれば、気づいた時にはステージ4の人もいる。順調に治る人もいれば余命宣告から奇跡みたいに治る人もいて、そうでない人もいる。

良い方をみても きりがないし、悪い方をみても きりがない。良い方をみてしまうとき、私は、なぜここまでにならなければならなかったのかな、と思うことがありました。もちろん自分自身の過ち 積み重ねなどあるにせよ何故、順調に治っていく道ではなかったのだろう、と。

2010年の結婚から7年、34歳の若さでこの世を去った小林麻央さんの闘病ブログからは、一般人よりも遥かに金銭的に恵まれていても、必ずしも良い病院、医師に最初から出会えるというわけではない、ということが読み取れる

 筆者の周囲にも、がんが発覚してから、あっという間に亡くなってしまった人もいれば、ステージ4で余命宣告を受けてから奇跡の回復を遂げた人もいる。彼らの運命を分けた「差」は何だったのか、という思いがかねてからある。

 このような「がん格差」に、本人の決断が関係していることは言うまでもない。麻央さんもブログで、「あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった あのとき、信じなければよかった」と綴っている。

 もし自分が「がん」を宣告された時、果たして悔いのない決断ができるだろうか。なにか「がん格差」を是正するような仕組みはないものか。そんなことをぼんやりと考えていたら、先日発売された『日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学』(講談社)の中に、自分なりの「答え」を見つけた。

日米でがん治療を体験した
著者の提案とは?

 筆者が見つけた答えが何なのかということを説明する前に、まずはこの仕組みを教えてくれたこの本について簡単に触れておこう。

 本書は米スタンフォード大学で医療政策部を設立し、医療ベンチマーク分析の第一人者として知られる医療経済学者・アキよしかわ氏が、医療ビッグデータに基づいて日米の医療を比較し、日米の「がん治療」を巡るさまざまな問題を考察している。

 それだけでも十分に興味深いのだが、さらにこの本の価値を高めているのは、筆者自身ががん患者だという点だ。日本とアメリカを行き来きしながら、自らが行ってきた「がん闘病」を赤裸々に語っている。

 2014年10月、アキ氏は「ステージ3B」の大腸がんを宣告される。がん研有明病院で手術を受けるも、その後の治療は、ハワイのクィーンズメディカルセンターで受けることとなった。家族と自宅はアメリカで、自分が設立した医療経営コンサルティング会社「グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン」が日本にあるということで、その中間点で治療をすることにしたのだ。

 この「日米両国でのがん治療体験」が、本書にさらなる深みを増している。医療経済学者という立場からの客観的なデータ分析をベースに、実体験に基づく調査も加わったことで、データから読み取ることができない、がん患者が直面する問題が浮かび上がり、その具体的な解決策まで導きだされているからだ。

 それこそが「キャンサーナビゲーション」である。

 アキ氏自身が「本当にこの本で紹介したいこと」と語り、日本にも導入すべきだと主張するこの制度について、端的に説明している箇所があるので、引用させていただく。

「これは現在、アメリカの医療現場で注目されているがん患者支援サービスのひとつです。ひと言でいうと、がんの闘病生活に必要な知識を有する専門家が、がん患者一人ひとりを個別にサポートする仕組みです。たとえば、低所得者層のがん患者が金銭的な問題から治療の継続を断念していた場合、キャンサーナビゲーションの担い手である「キャンサーナビゲーター(Cancer Navigator)」は患者の自宅を訪れてヒアリングし、本当に治療が困難か検討します。そのうえで、必要であれば医療の専門家、財務アドバイザー、地域の支援団体への橋渡しを行う――というようなサポートを行います」(P25)

 キャンサーナビゲーターは、がん拠点病院で研修を受けるが、治療法を提案したりすることはなく、あくまで患者自身を支えることに徹する。

 だから、身につける知識は、患者やその家族を「誘導」しないという、支援者ならではの「話法」や「表現」から、心の悩みに対する向き合い方、さらには怪しい治療法などの情報が溢れかえるネット上での「信頼できるサイト」の見極め方など多岐にわたる。

ビッグデータ解析で明らかに!
「日本の病院は当たり外れが大きい」

 小林麻央さんのケースからもわかるように、日本のがん患者とその家族は、「本当にこの選択でいいのか」という不安を抱えながら孤独な戦いを強いられる。あくまで決断するのは本人だが、その決断を後押ししてくれる「伴走者」がいない。だから、時に「あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった」という後悔も生まれる。

 つまり、アキ氏が提言するように「キャンサーナビゲーション」という仕組みが日本にも導入されれば、「がん格差」に悩む人たちの苦しみが軽減される可能性があるのだ。

 そう言うと、「アメリカみたいな医療を受けられない人がたくさんいるような国ならそういうサポートも必要だろうけど、日本のような誰もが質の高い医療を受けられる国では余計な混乱を招くだけじゃない?」というような人もいるだろうが、個人的にはアメリカよりも日本の方が、この仕組みを必要としていると感じている。

 なぜかというと、アキ氏の専門分野である日米の医療ビックデータで分析してみると、実は日本の「がん医療」というのは、アメリカよりもはるかに「質」のバラつきがあるからだ。本書に詳しいデータが多く掲載されているので、ここでは詳述しないが、この現象をアキ氏は以下のように総括している。

「(アメリカの)多くの学会では病院のガイドライン遵守率を調査し、公表しています。その結果、アメリカの患者は等しく最新の標準治療を受けることができるようになっているのです。一方で、日本にも専門分野ごとの学会があり、それぞれの学会で診療ガイドラインを出しています。しかし、それが遵守されているかといえば、遵守率の調査は行われておらず、結果も公表されていないためわかりません。日本では、病院のやり方、医師個人の判断や経験に左右され、ガイドラインが遵守徹底されているとはいいがたい現実があるのです」(P85)

 もちろん、アキ氏は日本の医療の「質」が低いなどということを主張しているわけではない。むしろ、がん研有明に術後入院した際には、アメリカでは見られない日本の医療従事者の献身ぶり、特に看護師の役割の大きさを評価し、ベンチマーク分析では見えてこない、患者の「救い」となっていると指摘している。ただ、事実として、医師や病院の個人によっておこなわれている医療にバラつきが多いということを指摘しているのだ。

 要するに、当たり外れが激しいのだ。

金持ちであっても
「ハズレ医師」に会う

 よく日本の医療は「世界一」といわれる。その評価についてはここでとやかく言うつもりはないが、もし日本の医療が「世界一」だとしても、あなたの目の前にいる医師が「世界一」だという保証はないのだ。
医療ビッグデータによる分析とともに、著者自身が日米両国で受けたがん治療の実体験からは、日本のがん治療の弱点が見えてくる

 このように病院や医者ごとの格差の激しいがん医療を受けなくてはいけない日本人は、外れを少しでもリスクヘッジしなくてはいけない。

 かといって、がんになってから本人と家族が専門書を読み漁って勉強をしても間に合わない。患者とその家族が悔いのない決断をするための、正しい知識を提供してくれる「キャンサーナビゲーター」は、大きな手助けになるはずだ。

 さらに、「信頼できる相談相手」という存在も大きい。人生で初めての「戦い」を前に、心が折れそうになるのは当然だ。医師との話し合いももちろん大切だが、それ以外の「(正しい知識を身につけた)伴走者」がいてくれれば、患者本人のみならず、家族も心を落ち着けて、納得のいく方策を選び取っていくことができる。

 日本人にとって「がん」はもはや国民病であり、金持ちも貧しい者も関係なく誰もが等しくかかる。そして金持ちだからといって、「当たり医師」に診てもらえるとは限らないのだ。社会主義国家ではないので、経済的な「格差」はいたしかたないとしても、「がん格差」くらい国家の力で是正していただきたい、と思うのは筆者だけだろうか。

[DIAMOND online]

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Posted by nob : 2017年07月12日 13:41