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賛が否を大きく上回ってきている昨今の珈琲健康論議。。。Vol.4

■ビジネスパーソンのコーヒー学 ~コーヒーと健康最前線~
コーヒーを飲むと痩せる!? ダイエット効果はあるか
第5回 コーヒーポリフェノールの脂肪燃焼効果とは――日本ポリフェノール学会理事長の板倉弘重さんに聞く

柳本操=ライター

みんなが毎日飲んでいる香り高いコーヒーは、カラダにいいことづくめだった! 以前は「カラダに悪い」と言われていたコーヒーが、最新の研究により「カラダにいい」ことが続々と明らかになっている。日経グッデイでは、最新の「コーヒーの健康効果」を専門家の方々に直撃して話を聞いた。第5回となる今回は、コーヒーに含まれるポリフェノールの脂肪燃焼効果に迫る。日本ポリフェノール学会の理事長で、品川イーストワンメディカルクリニックの理事長の板倉弘重医師に、コーヒーポリフェノールの効能や効果的な摂取方法について聞いた。

 これまで4回にわたって、がん予防、糖尿病予防、血液サラサラ効果など、コーヒーの多彩な働きをお届けしてきた。取材した専門家の方々が口を揃えたのが、「クロロゲン酸」という、コーヒーの健康効果を支えるポリフェノールの一種の働きについてだった。

 そもそもポリフェノールとは何なのか。コーヒーに含まれるクロロゲン酸はどういったポリフェノールなのか。そしてその効果は――。こう聞かれても漠然と「ポリフェノールはカラダにいいらしい…」くらいにしか説明できない人が多いのではないだろうか。

 そこで今回は、赤ワインやチョコレートなどの「ポリフェノールブーム」の火つけ役の1人で、日本ポリフェノール学会の理事長も務める板倉弘重医師に詳しく話を聞いた。板倉さんは、国立・栄養研究所 臨床栄養部に在籍していた時に、赤ワインに含まれるポリフェノールの抗酸化パワーを世界に知らしめた1人だ。

 クロロゲン酸は、強い抗酸化作用によって体内の炎症を抑えたり、LDLコレステロールを低下させるといったさまざまな効果がある。また、肝臓にいい影響を及ぼすことも第3回でも紹介した。

 今回特に注目したいのが「脂肪燃焼効果」だ。クロロゲン酸には、脂肪を燃やす働きがある。つまり、コーヒーはダイエットにも効果があるのだ。さらにコーヒーには、脂肪を燃やす働きがあるもう1つの成分「カフェイン」も多く含んでいる。これらが両方あると相乗効果が出る。そのダイエットパワーの神髄に迫っていこう。

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そもそもポリフェノールとは?

今回は、コーヒーに含まれるポリフェノールについて伺いたいと考えています。板倉先生は、長年にわたってポリフェノールの抗酸化作用について研究されてきました。まず、そもそも「ポリフェノールとは何か」から教えていただけますか。

板倉さん ポリフェノールは、植物由来の抗酸化物質の1つです。植物が自らを守るために作りだした成分なので、ほとんどの野菜や果物に含まれています。その種類は7000~8000種類ともいわれています。ちなみに、フェノールというのはベンゼン環にOH基(ヒドロキシ基)が1つ付いた有機化合物で、これが複数つながったのがポリフェノールです(詳しくは「健康効果というと、なぜ赤ワインばかりが取り上げられるのか」を参照)

 コーヒーのクロロゲン酸をはじめ、大豆のイソフラボン、お茶のカテキン、タマネギのケルセチン、赤ワイン、ブルーベリーに含まれるアントシアニンなどもポリフェノールの仲間です。植物由来の抗酸化物質には、ポリフェノール以外にも、ビタミンCやE、色素成分のカロテノイドなどがあります。

 ポリフェノールは、活性酸素による酸化からカラダを守ってくれます。これが抗酸化作用と呼ばれているもので、カラダにいい影響を及ぼすのです。

 そもそも私がポリフェノールに着目したのは、動脈硬化についての研究を始めたことがきっかけでした。

 1960年代に大学を卒業して医師になったばかりのとき、私は東京大学の第三内科に入局したのですが、そこで教授から「動脈硬化について研究しないか」と誘われたのです。当時は、動脈硬化を促進する要因となる「油」についての研究を主に行っていましたが、その後、国立健康・栄養研究所に移ってからは、「動脈硬化を促進するのは活性酸素によって血管内にできる酸化コレステロールである」という視点で研究を進めました。

 そこで赤ワインに豊富に含まれるポリフェノールの抗酸化作用に注目して研究を進め、赤ワインのポリフェノールが動脈硬化を予防する作用があることや、脂肪の吸収を抑制する効果があることなどを明らかにしたのです。その結果を、1994年に英国の医学雑誌「Lancet(ランセット)」において発表しました。その後は、ココアポリフェノール、お茶のカテキンなど、さまざまなポリフェノールの研究をしてきました。

コーヒーは日本人最大のポリフェノール源

コーヒーのポリフェノールには、どういった利点があると先生は考えているのですか。

板倉さん コーヒーに含まれるポリフェノール「クロロゲン酸」は、日本人にとってとても重要な役割を果たしていると考えています。なぜなら、日本人のポリフェノールの摂取量の多くはコーヒーによるものだからです。

 ネスレリサーチセンターが日本人の男女8768人を対象に行った研究があります。1日に摂取する全ての飲み物のうち、どの飲料からどのくらいのポリフェノールを摂取しているかを調べたものです。第一位の飲み物はコーヒーで50%、緑茶からは35%、ということがわかりました。また、1日あたりのコーヒー摂取量が多いほど、ポリフェノール摂取量が多くなることもわかっています(J Agric Food Chem. 25;57(4):1253-9.2009)。

日本人の食品・飲料からのポリフェノール摂取比率
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首都圏在住の主婦109人、食事、飲料などを1週間記録してもらい、ポリフェノールをどこから摂取しているかを算出した(Fukushima Y et al.,J Nutr Sci,2014)
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 飲み物だけでなく野菜や大豆製品なども含めた食事全体からのポリフェノール摂取量の調査を見ても、ポリフェノール摂取量の47%がコーヒーからの摂取になっています。コーヒーは日本人にとって最大のポリフェノール源なのです。これはネスレが2010年に、首都圏在住の主婦109人に、食事、食材、飲料を一週間記録してもらったデータから算出したものです。主婦を対象にした調査ということでデータに多少偏りがあるのではないかと思われますが、それを差し引いても、コーヒーが最大級のポリフェノール源であることは間違いないでしょう。

クロロゲン酸は強い抗酸化力で動脈硬化を予防

コーヒーと緑茶に含まれるポリフェノール量
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コーヒーには、緑茶の倍近くのポリフェノールが含まれている(Fukushima Y et al.,J Agric Food Chem,2009)
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日本人がコーヒーから最もポリフェノールをとっているとは、驚きですね。緑茶や野菜などのほうが多いのかと思っていました。

板倉さん そうですね。コーヒーは、緑茶のおよそ2倍のポリフェノールを含んでいることも、ポリフェノール源として寄与率が高い要因ではないでしょうか。

 コーヒーのポリフェノール「クロロゲン酸」は、その強い抗酸化作用によって体内の炎症を抑え、血管壁にプラークを作りにくくし、血管壁の内皮細胞に作用して血管をしなやかに保ちます。動物実験によって、クロロゲン酸を投与すると動脈硬化を抑え、LDLコレステロールが低下する、肥満を改善するといった研究が集積されてきました。その他、コーヒーによる肝機能への効果は、クロロゲン酸によるものと言われています(詳しくは第3回を参照)。

板倉さん 最近は、「コーヒーがカラダにいい」というのはもはや周知の事実になっていて、現在は飲む量と病気の関係についてさかんに研究が進められています。多くの研究を見渡すと、どうやら1~2杯では足りないようで、3~4杯ぐらいが適当ではないかという意見が多いようです。

 私が医師になった1960年代は、医学会でも「ポリフェノールは人間の必須栄養素ではないから、あまり役に立つ成分ではない」というふうに考えられていました。しかし、それ以降、世界中で疫学調査が行われ、「コーヒーをある程度飲むと心筋梗塞を予防できる」「死亡率も低くなる」という事実が続々と発表されたため、その意識も大きく変わりました。

 欧米では心臓病が死因のトップであるため、動脈硬化を予防することは非常に重要な課題となっています。また、糖尿病や肥満については、日本を含む先進国だけでなく、アジアやアフリカなどの途上国でも深刻な事態となっています。特に中国とインドでは糖尿病が今後爆発的に増加すると予測されています。そんな中、コーヒーを飲む習慣は糖尿病予防にもつながるとして、世界的にも注目されています。この血糖値を下げる効果も、クロロゲン酸によるものと考えられています(詳しくは第4回を参照)。

コーヒーには脂肪燃焼効果がある

クロロゲン酸にはさまざまな効果があるのですね。コーヒーには脂肪燃焼効果があるという話を聞きますが、これもクロロゲン酸によるものですか?

板倉さん ご指摘のように、コーヒーには脂肪燃焼効果があります。飲むと、脂肪の燃焼が促進されるわけです。そうした効果をうたった商品も登場しています。

 コーヒーの脂肪燃焼作用を詳しく見ると、クロロゲン酸の働きとカフェインの働きという2つの側面があります。両方とも脂肪を燃焼させる効果がある成分ですが、それぞれ働き方が異なります。

クロロゲン酸とカフェインがダブルで効く

板倉さん クロロゲン酸を摂取すると、肝臓での脂質の代謝が活発になり、結果として脂質の燃焼によるエネルギー消費が増加します。つまり、脂肪が燃えやすいカラダを作る。これはトクホでもおなじみのお茶のカテキンと共通する働きです。

 一方、カフェインは、体内に入ると交感神経が優位になります。眠気が覚めるのはこのためですが、同時にカフェインは体内にあるリパーゼという酵素を活性化させます。このリパーゼにより、脂肪がエネルギーとして活用されやすい遊離脂肪酸に分解され、血液中に放出されます。そして、エネルギー源として消費されるのです。つまり、カフェインによって、脂肪がエネルギーとして消費されやすくなり、脂質の代謝が高まるのです。

 コーヒーには、このような脂肪をエネルギーに変えていくための2つの成分が同時に、しかも豊富に含まれています。ここが大きなポイントです。

運動とセットで摂取するのが効果的

個人的な疑問になってしまうのですが、よろしいでしょうか。私は毎日3~4杯はコーヒーを飲んでいます。ですが、ちっとも体重が落ちないのですが…。

板倉さん 脂肪燃焼効果があるといっても、それだけで痩せるわけではありません。体重を落としたい場合は、まずエネルギー摂取量とエネルギー消費量のバランスを考えないといけません。

 当たり前の話ですが、エネルギー消費量よりもエネルギー摂取量のほうが多いと、消費しきれなかった分のエネルギーが体脂肪として蓄積されます。反対に、消費エネルギーが摂取エネルギーを上回れば、体脂肪が燃焼しエネルギーとして利用されるので、体重を落とすことができます。食べ過ぎているのに、コーヒーを飲むだけでダイエットできるというわけではないんですよ。

 もちろん脂肪燃焼効果はあるわけですから、それをうまく引き出せばダイエットにつなげることはできますよ。効果を高めるポイントは「運動との組み合わせ」です。「運動とコーヒー摂取を組み合わせると、体重減少、内臓脂肪や皮下脂肪の減少効果が出る」という報告が複数出ています。つまり、運動による脂肪燃焼効果をコーヒーが底上げしてくれるわけです。

 話が少しそれますが、「運動前にカフェインを摂取すると運動能力がアップする」という研究成果もあります。だからこそ、以前はスポーツ競技でドーピングの対象となる薬物にカフェインが含まれていたのです。ただし、2004年以降禁止物質から除外されています。つまり、運動前にカフェインを含むコーヒーを飲むことは、脂肪の燃焼を促進すると同時に、運動能力がアップするのでおすすめです。

痩せ効果を得たいなら、運動の1時間前に飲む

運動と組み合わせて飲むならどのようなタイミングが良いでしょうか。

板倉さん クロロゲン酸は、やや溶けにくいものの、水溶性の性質を持っています。口から入ると1~2時間後に血中でピークになり、4 時間後ぐらいにはカラダの外に排泄されてしまいます。もともとポリフェノールは異物とみなされるので、カラダはすぐに排泄しようとするのです。体内への吸収率も高くはなく、数パーセントほどしか吸収されない、といわれています。カフェインも、クロロゲン酸と同様に1~2時間後で血中においてピークになります。

 ですから、運動する1時間前ぐらいにコーヒーを飲むのがおすすめです。ちょうど運動をして脂肪が燃焼しはじめる頃に、クロロゲン酸とカフェインも血中でピークとなり、その燃焼効果を高められると考えられます。

 また、運動時には活性酸素もたくさん体内で生じますから、クロロゲン酸の抗酸化作用によって活性酸素の害を抑えられるというメリットもあるでしょう。

 クロロゲン酸はタンパク質と結合しやすい性質を持っているため、コーヒーにミルクをたくさん入れると、牛乳のカゼインというタンパク質と結合して、その吸収が落ちる可能性があります。クロロゲン酸のパワーをフルに引き出したいなら、ブラックで飲むのがおすすめです。

コーヒーの有効成分は、素早く吸収され、排泄される。この性質を知っておくことで、うまく体内で効かせられそうですね。

板倉さん 人間は、ポリフェノールのことなど知らないずっと昔から、ティータイムの習慣を持っていました。イギリスやオランダでは紅茶、アメリカではコーヒー、日本では緑茶、というふうに、種類は違えど、こまめにポリフェノールを体内に入れることによって健康効果が得られることを知っていたのだと考えると、人間の知恵はすごいと思いますね。

 時代は変わり、現代は飽食で運動不足の時代です。メタボなどの“現代病”の予防効果を持つコーヒーの価値はより高まっているように感じます。

[日経Gooday]

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Posted by nob : 2017年08月01日 19:10