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賛が否を大きく上回ってきている昨今の珈琲健康論議。。。Vol.3

■ビジネスパーソンのコーヒー学 ~コーヒーと健康最前線~
コーヒー習慣は血糖値も下げる! 驚きのコーヒー効果
第4回 メタボに悩むビジネスパーソンはコーヒーを!――国立健康・栄養研究所 古野純典さんに聞く(後編)

柳本操=ライター

みんなが毎日飲んでいる香り高いコーヒーは、体にいいことづくめだった! 以前は「カラダに悪い」と言われていたコーヒーが、最新の研究により「カラダにいい」ことが続々と明らかになっている。日経グッデイでは、最新の「コーヒーの健康効果」を専門家の方々に直撃して話を聞いた。今回は、前回に引き続き国立健康・栄養研究所所長の古野純典さんに、生活習慣病とコーヒーの関係について話を伺っていく。コーヒーは、肝機能や痛風に効果があるだけでなく、糖尿病にも効果があるという。

前回のお話を聞くと、コーヒーには、肝機能に効果があり、さらに痛風の原因となる尿酸値も下げる、といいことばかりですね。しかし、昔はカラダに悪いという印象が強かったですよね。

古野さん そうですね。ご指摘のように、1980年代前半ぐらいまでは、今とは逆で、カラダに悪いと思われていました。だから、コーヒーの研究が盛んに行われたわけです。当時北欧では「コーヒーは心筋梗塞を引き起こしやすい」という研究も発表されていました。

 北欧には、挽いたコーヒー豆をボイルして(沸かして)、固形成分を沈殿させた上澄みを飲む「ボイルドコーヒー」を飲む習慣がありました。このような飲み方では、コーヒー豆に含まれる特殊な脂質成分を体内に取り込むことになります。実はこのコーヒーの脂質成分は、コレステロール値を高め、脂質異常をもたらす一因となるのです。だから、こういったネガティブな研究結果が出たわけです。

 ただ、安心してください。この脂質成分はフィルターを通すと除去されます。日本や米国ではコーヒーはフィルターを通して飲む方法が一般的なので、心配する必要はありません(編集部:コーヒーの飲み方と健康効果については、特集の後半で紹介する予定です)。

 当時はこのような理由から「コーヒーは体に良くない」という論調が優勢でした。しかし、前回もお話ししたように、私どもが実際に研究を始めてみると、飲酒による肝機能障害の保護効果がわかり、さらに痛風の原因となる尿酸値も下げることもわかってきた。実は、「コーヒーを飲んでも悪いことは何もないのではないか」と思ったわけです。「コーヒーの効果をもっと探りたい」と私の中での興味が高まっていったのです。

糖尿病患者、予備軍は2000万人!

古野さん そんななか、2002年にオランダのヴァン・ダム教授らが「コーヒーを1日7杯飲む人は、1日2杯以下の人に比べて2型糖尿病発症リスクが50%下がる」という発表を「ランセット(Lancet)」という科学雑誌に発表しました。約1万7000人のオランダ人男女を平均で7年間追跡した結果をまとめたものです。この研究結果は世界中に大きな影響を及ぼしました。

 それ以降、フィンランド、スウェーデン、米国でも続々と糖尿病に対して効果があるという報告が発表されました。それらによって「コーヒーが2型糖尿病の発症を予防する」ことはほぼ確実ではないか、と考えられるようになったわけです。

すみません。2型糖尿病というのは…。

古野さん 糖尿病には、遺伝的素因が強い1型糖尿病と、生活習慣病としての2型糖尿病があります。成人で発病する糖尿病のほとんどは2型糖尿病です。

 厚生労働省の2012年「国民健康・栄養調査」結果の推計によると、糖尿病が強く疑われる人が約950万人にも達しています。病気の可能性を否定できない「糖尿病予備群」も1100万人と非常に多い。

 ヨーロッパなどの研究は、患者の自己申告や薬を投与しているかどうかなどのデータを基に行われていました。しかし、糖尿病かどうかを正しく判定するには、「75g経口ブドウ糖負荷試験」を行う必要があります。

 「75g経口ブドウ糖負荷試験」というのは、空腹時血糖値を測定した後に、ブドウ糖を投与して、血糖値がどう変化するかを測定する検査です。ブドウ糖を投与した2時間後の血糖値をみると、その人の糖の処理能力、つまり血糖値を下げるインスリンがしっかり機能しているかという「耐糖能」を見ることができます。2時間後の血糖値が200mg/dLを超えていたら完全に糖尿病です。140mg/dL未満なら正常、140以上200未満は「耐糖能障害」と診断されます(なお、空腹時血糖値が126mg/dL以上なら、2時間後血糖値の値によらず糖尿病と判断される)。

 75g経口ブドウ糖負荷試験の結果を基に、コーヒーと糖尿病の関係を調査した研究はそれまではありませんでした。私どもは、前回お話しした男性自衛官の研究で検討しました。その結果、コーヒーを飲まない人に比べて、コーヒーを1日に1~2杯飲む人は4割も耐糖能障害が少ないことがわかったのです。この結果は2004年に発表しました。

コーヒー1日5杯で血糖値が下がった

古野さん 2008年からは九州大学で「介入研究」に着手しました。介入研究というのは、病気と因果関係があると考えられる要因に積極的に介入して、その有効性を検証しようというものです。つまり、コーヒーを飲まないようにしたグループと飲んでもらうグループで、糖尿病に関わる数値がどう変化するかを実際に確かめたわけです。

 研究に参加してくれた対象者は、新聞などに広告を出して募集しました。その中から、40~64歳の男性で、BMIが25~30の太り気味の人、コーヒーを毎日飲む習慣がない人などの条件をクリアした人を選び、49名が試験に参加しました。最終的に、43人を対象にして結果を分析しました。

試験は、具体的にどのように進められたのですか。

古野さん 被験者には、インスタントコーヒーを1日5杯ずつ、16週間にわたって飲んでもらいました。海外の同様の研究では、2週間、4週間といった短期間の研究ばかりだったので、思い切って16週継続したのです。参加者は無作為に3グループに分けました。ちなみにコーヒーには砂糖やミルクは一切入れないというルールです。

* 1. 普通のコーヒー(カフェインを含む)を毎日5杯飲むグループ
* 2. デカフェコーヒー(カフェイン抜き)を毎日5杯飲むグループ
* 3. 非コーヒー(ミネラルウォーター)グループ

 試験開始前の2週間は、全員にカフェイン摂取を禁止してもらい、飲用期間の前後3回にわたって「75g経口ブドウ糖負荷試験」を行いました。実施された負荷試験によって、飲用スタート前と16週後の変化率を示したのが次ページのグラフです。

デカフェでも効果あり!

古野さん 普通のコーヒーを飲んだグループは、2時間後の血糖値が実験前、つまり16週前よりも平均で10%弱低下し、非コーヒーのグループはプラスとなりました。つまり、コーヒーを飲まなかったグループは、時間経過によって血糖値が上がり、コーヒーを飲んだグループは血糖値の上昇が抑えられたわけです。デカフェコーヒーを飲んだグループは、血糖値に変化はなかったものの、肥満度の変化を補正したデータを見ると、通常のコーヒーとほぼ同等の結果になりました(グラフ内のデータは補正済みのもの)。

調査開始時と16週後の血糖値の変化(九州大学調査、2008-2009年)
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普通のコーヒーを飲んだグループは、「75g経口ブドウ糖負荷試験」の2時間後の血糖値が 16週前よりも平均で10%弱低下した。デカフェコーヒーを飲んだグループは、血糖値には変化はなかったが、肥満度の変化を考慮して調整したところ、通常のコーヒーとほぼ同等の結果となった(グラフは肥満度の変化を調整した数値、Journal of Nutrition and Metabolism 2012)
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なるほど、何もしないでいるとじわじわと上がっていく血糖値を、コーヒーが抑えたのですね。血糖値上昇を抑える効果も、コーヒーのクロロゲン酸によるものなのですか?

古野さん そうですね。血糖値上昇を抑える効果も、おそらくクロロゲン酸の作用が効いているのではないかと考えています。インスリンを分泌する「膵β細胞」にクロロゲン酸が保護的に働く、クロロゲン酸が腸管での糖の吸収を抑制する、血糖値を上昇させる酵素の働きを抑えるなどの報告があります。

 私は主に、コーヒーの肝機能、痛風、糖尿病への効果を研究してきましたが、他にも肝臓がんの予防に効果があるなどコーヒーの効用は多く報告されています。人間が長く飲み続けてきた日常的な飲み物が、このようにいろいろな側面で健康に役立つというのは素晴らしいことだと思います。

           ◇      ◇      ◇
     
 次回は、男女を問わず誰もが気になるコーヒーのダイエット効果に迫る。ポリフェノールや体内の脂質の代謝に詳しい、品川イーストワンメディカルクリニックの理事長で、日本ポリフェノール学会の理事長も務める板倉弘重医師に詳しく話を聞いた。

[日経Gooday]

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Posted by nob : 2017年08月01日 18:53