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地球温暖化対策最前線、、、毎日新聞より。。。

■読む政治・選択の手引:どうする地球温暖化(その1) 緑の海の異変

 ◇熟さないモミ/サンゴ「白化」

 「何だ、これ」。新潟県長岡市福道町の米専業農家、安達隆幸さん(56)は昨春、地元JAから渡された紙を見て戸惑った。「適期田植え同意書」と題された紙には「田植えを基本的に5月10日以降に行います」と記され、署名を求めていた。JAが07年産米から導入したものだ。田植えは5月の大型連休に家族総出でやるのが地域の常識で、遅らせる狙いはただ一つ。新潟が誇るブランド米コシヒカリの品質回復だ。

 長岡市では近年、もみが成熟しないなどの被害が頻発し、06年産コシヒカリの品質を示す1等米比率は46%と過去最低。県平均(73%)や全国平均(79%)を下回り、福島、山形など90%を超える隣県の主力品種にも大きく水をあけられた。

 農水省の統計で79~06年の28年間を見ると、新潟県の1等米比率は前半14年間のうち12年で全国平均を上回ったが、93年以降の後半14年間で全国平均に達したのは6年だけ。「日本一の米どころの座が危ない」。田植え時期変更の同意書には、新潟の農業関係者の危機感が凝縮していた。

 県の研究で、稲に穂が付き始める時期に26度を超す高温が重なると、稲に障害が出やすいことが分かった。長岡も夏の暑さが厳しくなり、5月の大型連休に田植えをすると、穂が付く時期と高温が重なるようになった。田植えを遅らせ水量の管理も徹底した昨年、長岡市の1等米比率は79%に改善した。

 安達さんは「温暖化の影響は無視できない。コシヒカリのブランド力にあぐらをかいていられない」と話す。

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 白骨の山のように、真っ白なサンゴが海底に広がっていた。沖縄県石垣島の白保海域で昨年夏、北半球最大といわれるアオサンゴの群落などに大規模な「白化」が起きた。白化は、サンゴの体内に共生する藻類が水温上昇などで逃げ出し、サンゴが白っぽく見える現象。長く続くと、藻類から栄養を得ていたサンゴは死に、サンゴ礁全体が壊滅する。世界各地で報告され、温暖化の影響が疑われた。

 世界自然保護基金(WWF)の調査で、白保海域のサンゴ約120種のほとんどで白化を確認。冬の段階でアオサンゴなどに元の鮮やかな色が戻ったが、ミドリイシなどは半数以上が死んだ。

 昨年は梅雨明け後の6月下旬から海水温が急上昇し、高温の期間が例年の4倍以上続いた。これからが心配な季節だ。さらに今年は、サンゴを食べるオニヒトデが大発生している。「もともとオニヒトデは白保にいなかった。大発生も温暖化の影響との指摘もある」と、WWFサンゴ礁保護研究センターの前川聡さんは懸念する。【五十嵐和大、山田大輔】

   *  *

 次の衆院選に向けた選択の手引。今回は、1週間後に迫った主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)でも主な議題となる地球温暖化対策を取り上げる。


■読む政治・選択の手引:どうする地球温暖化(その2) 存在感問われる日本

 ◇元取れぬ太陽光発電/省エネ「システム化」で成果

 「投資回収に20年。いくら環境に良くても人には薦めにくいよ」。兵庫県宝塚市の住宅街。安田寿夫さん(71)はため息をついた。

 安田さんは99年、出力3キロワットの太陽光発電パネルを自宅の屋根に設置した。国の補助金(当時107万円)を除く137万円が自己負担。退職前は建設会社で設計を手がけ省エネに興味があったが、安くない投資だった。

 余剰電力は関西電力に売るが、その収入は年5万3000円程度。パネル補修費などを考えると、20年たたないと元が取れない。

 世界の太陽電池市場は日本のメーカーが上位を占めてきたが、07年にシャープが首位から転落。躍り出たのはドイツのメーカーだ。ドイツ躍進の契機は、再生可能エネルギー普及策。太陽光発電は電力を通常の電気料金の2~3倍で売却できる。優遇措置のおかげで投資回収は10年で可能だ。05年には累積設置量で日本を逆転して首位に立った。

 一方、日本政府は太陽電池補助金を「電池価格低下で役割を終えた」として05年に廃止。国内市場は縮小に転じた。

 ドイツの優遇措置は、1世帯当たり約300円の国民負担が財源だ。安田さんは「日本も国民負担を求めて太陽光発電の買い取り価格を上げれば、設置も増える」と話す。福田康夫首相が9日に「太陽光発電世界一の座を奪還する」と宣言したことを受け、経済産業省が補助金制度復活の検討に入るなど、国内にも動きが出始めた。

     ◆

 北海道小樽市のコープさっぽろ・みどり店。幹部職員の携帯電話が鳴った。消費電力上昇を知らせるメールだ。「ただいまよりエコタイムです。節電にご協力ください」。店内放送で知らせると、従業員たちが倉庫の電灯や温水洗浄便座の電源などを消して回る。

 コープさっぽろは昨秋、店舗の消費電力をリアルタイムで把握し、一定値に近づくと職員総出で省エネに取り組むシステムを導入した。年間消費電力を7%減らし、CO2排出量を削減する計画だ。

 システムを開発したのは、経営コンサルタント「コスト削減総合研究所」(東京都千代田区)。取引先事業所と自社に、事業所の消費電力や電気料金、CO2排出量をグラフ化するシステムを配置、運用手数料などを得る。温暖化対策を迫られた大手スーパーなどが導入し、取引先は1400カ所を超えた。

 09年4月の改正省エネ法施行で、現在は工場など大規模事業所だけに課されているエネルギー使用量の報告義務などが、コンビニエンスストアなどにも拡大する。コスト総研の村井哲之社長は今年5月、同法改正案審議の参考人として参院経済産業委員会に出席し、「電力消費を20%削減したスーパーもある。従業員の省エネ意識が変わるだけでも成果は大きい」と指摘した。

 ◇企業、苦渋のエコ投資/排出量市場、サミットを注視

 国内鉄鋼2位のJFEスチール。川崎市の東日本製鉄所で、高さ約30メートルの新型炉が完成し、8月の運転開始に向けて稼働テストが続く。総工費約100億円をかけた新型炉の目的は、CO2削減だ。

 新型炉は鉄鉱石の代わりに鉄スクラップを使い、CO2の排出を高炉の半分に抑える。一方で生産コストは数割増。原材料のスクラップ価格も昨年の2倍近くに高騰した。「温暖化対策を迫られなければ建設しなかった炉だ」。JFE幹部は苦笑する。

 JFEの06年度温室効果ガス排出量は6029万トンで、電力会社を除けば国内最大。国内の温室効果ガスの15%が鉄鋼業界から排出されており、削減要求は厳しさを増す。

 国内鉄鋼業界は石油危機に見舞われた70年代以降、4・5兆円を省エネに投じてきた。地球環境産業技術研究機構によると、国内勢のエネルギー効率は世界一。ドイツより約15%高いという。しかし中国など新興国の特需もあって国内生産量は増え、07年は過去最高を更新。排出削減の道は容易ではない。

 一方で世界最大の鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタル(ルクセンブルク)の拠点の多くは、排出削減義務を負わない新興国にある。日本鉄鋼連盟幹部は「先進国の排出規制は強まる一方。温暖化対策コストが膨らめば、国際競争力低下につながる」と警戒する。

     ◆

 「先月は1日100万トンものCO2排出量取引をまとめた」。欧州最大のCO2取引量を誇るブローカー、英ICAPは、ロンドンの金融街シティーに事務所がある。バブネフさん(25)は、ひっきりなしに鳴る電話をさばきながら「今後の急成長も確実だ」と満足げだ。

 昨年、世界のCO2排出量取引は、金額、量とも前年の約2倍。20年の取引額は3兆ドル(約320兆円)と、07年の50倍になると予想されている。

 バブネフさんら6人のチームは、削減義務を果たすため排出量取引が必要になりそうな大企業に売り込みをかけるなどして、市場外で顧客同士の取引を仲介する。リーダーのストリックランドさん(44)は「24時間、気を抜けないが、大きな可能性がある」と語る。

 同じシティーにある欧州気候取引所(ECX)は、市場を介したインターネット取引をほぼ独占する。福田康夫首相が排出量取引制度の試験導入を発表後、取引量が2~3倍に膨らみ、日本の商社などから問い合わせが殺到した。親会社である気候取引所(CX)のエッカート最高経営責任者は「京都議定書後の枠組み協議が成功するかどうかは、サミット議長国・日本のかじ取りにかかっている」と強調し、日本の動きに注目している。【山本明彦、江口一、ロンドン藤好陽太郎】

 ◇低炭素社会の先行モデルに--UNEP金融イニシアチブ特別顧問・末吉竹二郎氏

 二酸化炭素(CO2)を出す世界から減らす世界へと、時代は変わった。自ら高い目標を掲げ、早く低炭素社会の足がかりを作った国が勝ち残れる。理屈をこねて削減の中期目標を発表しないようではだめ。洞爺湖サミットでぜひ議長国日本が旗を掲げてほしい。

 ドイツは2020年に90年比40%減と言い、多くの政策と資金を投入している。きっと20年には低炭素社会の原形ができている。仮に日本の目標が14%減なら、それだけ低炭素化に差がつき、その後の競争は不利になる。

 温暖化対策のコストは、裏返せば低炭素社会への先行投資。雇用を増やし、経済成長をもたらすビジネスチャンスととらえるべきだ。「CO2を減らした人が得をする」という新しい基準を社会が取り込み、削減が進む方向にお金の流れを誘導することが重要だ。

 最初は国が借金してでも、対策に前向きな企業や商品購入に優遇税制を行って資金を回すべきだ。環境税、炭素税はその後押しになる。排出量取引は、CO2を余計に減らした人がコストを回収でき、投資への資金循環が生まれて社会全体の削減コストも下げられる、よくできた制度だ。

 これまでタダだったCO2に1トン減らせば1000円などと価値がつき、お金そのものを意味するようになる。もうかるかどうかだけでなく、CO2も融資の基準に加え、日本の銀行の貸出残高400兆円のうち1%を低炭素化に使うよう義務付ければ、金融機関を通じて資金の流れは大きく変わるはずだ。

 企業に炭素情報の公表を義務付け、努力した企業の株や商品を買うなど、社会が正しく評価することも必要だ。商品の製造・流通過程のCO2排出量を表示し、排出量のより少ない商品を消費者が選ぶ「緑の消費革命」が世界中で始まるだろう。また、食糧の国産化などの排出削減プロジェクトで、地方への資金の流れを生み、温暖化対策で地方活性化も可能となる。「政策複合」の発想でアイデア合戦する時代が来た。

 とんでもない温暖化の被害で、世論が一夜にして変わる日は遠くない。手遅れになる前に行動してこそ人間だ。社会のかじの切り替えは今後5~10年間が勝負。「どの国が消えたら困るか」との質問に、世界の人たちが「日本」と答える国、「温暖化との戦い」に欠かせない国にしなければいけない。【構成・山田大輔】

 ◆温室効果ガス中期目標

 ◇自民--数値明示に慎重/民主・公明--25%削減/共産・社民--30%削減

 与野党は排出量取引制度の導入では一致しているが、温室効果ガスの中長期の削減目標で温度差もある。

 自民党の地球温暖化対策推進本部が11日にまとめた中間報告は(1)50年までに温室効果ガス排出量を60~80%削減(2)中期目標は来年末の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)までに発表(3)国内排出量取引は10年から準備的運用を開始--とした。政府と足並みをそろえた形だ。

 このほか▽夏に時計の針を1時間進めるサマータイム制度を10年に導入▽国内の温室効果ガス排出量を減少に転じさせる「08年ピークアウト宣言」の発出--なども提言した。

 公明党は提言で「50年80%削減を視野に入れた」目標設定を主張。政府・自民党が明示していない中期目標も「20年25%削減」を掲げるよう求め、独自色を出した。

 一方、民主党は4日、地球温暖化対策基本法案を参院に提出した。中期目標を「20年に25%削減」とし、基準年も欧州連合(EU)と同じ「90年比」に設定。岡田克也副代表(地球温暖化対策本部長)は「中国やインドを巻き込みたいなら、率先して中期目標を示すべきだ」と主張する。長期目標は「50年までのできるだけ早い時期に60%超の削減」とし、期間の短さで差別化を図った。

 共産党は25日、「50年80%削減」の長期目標と「20年に90年比30%削減」の中期目標設定を政府に求めた。社民党がまとめた「地球温暖化防止戦略」は「20年に90年比30%削減」「50年80%削減」を掲げている。【高山祐】

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 ◆各党が掲げる中長期の削減目標◆

   <長期目標>            <中期目標>       <排出量取引>

自民 50年60~80%削減       09年末までに発表    10年から準備的運用

民主 50年までの早い時期に60%超削減 20年90年比25%削減 10年から実施

公明 50年80%削減視野        20年25%削減     12年までに試行的導入検討

共産 50年80%削減          20年90年比30%削減 導入すべきだと主張

社民 50年80%削減          20年90年比30%削減 10年をめどに導入

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 ■人物略歴
 ◇すえよし・たけじろう

 三菱銀行取締役、日興アセットマネジメント副社長を経て03年から国連環境計画(UNEP)の現職。63歳。


■読む政治・選択の手引:どうする地球温暖化(その3止) 破局回避へ動く世界

 地球温暖化の問題が国際的に大きくクローズアップされている。世界的に気温は上昇を続け、その影響がさまざまな分野に広がりを見せているからだ。温暖化の原因は何か。問題の解決に向けて、どんな主張が展開されているのか。整理してみよう。【高山祐】

 ◇温室ガス削減が緊急課題

 Q 地球温暖化って何が原因なの?

 A 産業革命以降の人間の活動が主な原因とされている。象徴的なのは、工業製品生産のため、工場で石油や石炭を大量に燃やすようになったこと。その結果発生した二酸化炭素(CO2)が大気中に大量に排出されたことが、地球の温暖化につながっていると言われる。

 Q CO2だけが問題なの?

 A CO2のほか、メタンなど6種類の気体を「温室効果ガス」と呼び、同じような影響があるとみられているんだ。

 Q 温室効果ガスが増えると、なぜ地球温暖化が進むの?

 A 太陽の光が当たると、地表は温かくなる。その熱は宇宙に向けて放出されるけど、温室効果ガスはその熱の一部を吸収して、逆に地表に向かって放射する。だから、温室効果ガスの濃度が高くなると、地表に向かって放射される熱が増えて、気温が上がるんだ。

 Q 地球温暖化で、どんな影響が出るの?

 A 昨年ノーベル平和賞を受賞した国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の報告書は「平均気温の上昇=別注=を抑えなければ、生態系や気候に大きな影響が出る」と指摘している。具体的には▽極端な高温や熱波、大雨が頻発▽熱帯低気圧の強度が増大▽水不足に苦しむ人が数億人増▽生物種の30%が絶滅の危機に直面▽栄養不良や感染症に苦しむ人が増加--などを挙げている。

 ◇米中印含めた枠組み必要/日本、EU…手法巡る「各論」で綱引き

 Q 国際社会は、問題解決のためにどんな努力をしているの?

 A 92年に大気中のCO2濃度の安定を目指す気候変動枠組み条約が採択された。97年には、先進国に温室効果ガスの排出削減量を義務付けた京都議定書に結びついた。

 京都議定書は08~12年の5年間を「削減義務の対象期間」と位置づけ、日本は90年度比6%の削減が義務付けられた。でも削減どころか06年度には基準年比で6・2%上回っており、目標達成は厳しい状況になっている。

 Q 12年を過ぎたらどうなるの?

 A それが最大の焦点だ。つまり「ポスト京都議定書」の13年以降、温室効果ガス削減に向けた国際的枠組みをどう作るか、ということだね。実は京都議定書の枠組みでは、温室効果ガスの主要排出国である米国や中国、インドに削減義務はないんだ。

 Q どうして?

 A 米国は自国への削減義務を不服として離脱した。中国やインドは発展途上国扱いになって、削減義務を負わなかったんだ。05年のCO2排出量を見ると、日本は全世界の4・5%。一方で米国は21・4%、中国18・8%、インドも4・2%で、この3カ国の排出量は無視できない量だ。新しい枠組みにこれらの国が参加しないと、温室効果ガス削減の実効性を保てないことになる。

 Q 今はどんな議論になっているの?

 A 昨年12月にインドネシアのバリ島で開かれた国連「気候変動枠組み条約第13回締約国会議」(COP13)は、今後2年間の交渉で、米国や中国、インドも参加した新たな枠組み作りを具体化することで合意した。来年末にデンマークで開かれるCOP15で具体策がまとめられる予定で、これから1年半の論議がとても大切だ。

 Q 議論の焦点は?

 A 温室効果ガスの削減目標を決められるかどうかだ。削減目標には、2050年までの長期目標と、20年をめどとする中期目標がある。

 Q 長期目標の議論はどうなっているの?

 A 昨年の主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)では「50年までに温室効果ガスの排出量を半減させることを真剣に検討する」という抽象的な表現でまとまった。7月の北海道洞爺湖サミットでは、この目標を主要国の共通認識として位置付けられるかどうかが焦点だ。

 Q 日本の長期目標はないの?

 A 福田康夫首相が9日、「50年までに60~80%削減」という独自の目標を出した。先進国は率先して世界全体より厳しい目標を掲げるべきだ、という考えだ。ただ、難しいのは、削減の基準となる年をどうするかだ。

 Q どういうこと?

 A 欧州連合(EU)が主張する90年を基準年にすると、当時から省エネ技術が進んでいた日本は、過度な削減義務を負わされかねない。京都議定書での「6%の削減義務」は90年が基準で、経済界から「不公平な数値」という不満が根強い。基準年見直しの是非は、削減目標を定める上で論点の一つだね。

 Q 中期目標は?

 A 長期目標より難航している。COP13ではEUなどが「先進国は20年に90年比25~40%削減」という案を主張したが、日本や米国は反対している。

 Q 日本も反対?

 A 日本は、中期目標について来年中に打ち出す考えだ。福田首相は、中期目標は漠然とした数値ではなく、技術革新などに裏打ちされた根拠が必要という考えだ。だから、産業別・分野別に省エネ技術の進み具合などを加味して削減可能量を積み上げる「セクター別アプローチ」を提唱した。首相は洞爺湖サミットでセクター別への各国の評価を獲得して、国際基準にしたいと考えている。

 Q 各国の反応は?

 A 首脳会談などでは一定の支持を得られているけど、EUなどは「日本が重い負担を免れるための言い訳では」と懸念している。

 ◇排出量取引、今秋に試験導入

 Q 「排出量取引」という言葉も聞くね。

 A 国や企業に温室効果ガスの「排出枠」を割り当てて、過不足分をやり取りできる制度のこと。例えば排出し過ぎた企業は、枠を超えた分を、排出枠に余裕のある企業から購入したりする。EUでは05年に独自の取引制度を導入している。

 Q 日本は?

 A 日本では経済界を中心に反対論が強かった。マネーゲームの場となる懸念や厳しい排出枠が企業経営を圧迫するという不安があった。でも福田首相は、今秋をめどに試験的に導入する方針を表明し、導入にかじを切った。

 Q 首相はなぜ方針転換したの?

 A 導入方針を示さないと、サミットに向けて議論の主導権を取れないという不安もあったろうし、来年末のCOP15に向けた国際協議でも苦戦を強いられると懸念したんだろう。欧州に押された形での導入という感は否めない。細かい制度設計など、まだまだ議論すべきことがありそうだ。ただ、国の制度だけでなく、私たちも生活の中で身近な省エネを心がけていくことが大切なことは言うまでもないことだね。

 ◇金融ゲームより制度転換を--日本総合研究所会長・寺島実郎氏

 国別削減目標を高く掲げ、排出量取引制度を導入すれば、地球温暖化問題に前向きという、薄っぺらな論議から脱するべきだ。排出量取引導入に熱心なのは金融関係の人たちだ。環境問題をマネーゲームにしてはならない。今、必要なのは、地球上のCO2を本気で減らす制度設計だ。

 日本がやるべきことは、京都議定書の約束の確実な実行だ。12年までに90年度比6%削減をクリアできなければ、京都議定書後の数値を掲げても意味がない。国内排出量は06年度の時点で既に90年度比6・2%増。議定書達成には単純計算で約12%の削減が必要だ。産業構造を転換させなければ不可能だ。

 日本は戦後、エネルギーと食糧を外から買えばいいという国をつくった。その結果、エネルギーの9割を外部に依存、食料自給率もカロリーベースで39%しかない。主要輸入食品を国内生産に切り替えれば、輸送に伴うCO2排出量を大幅に減らせる。さらに農地の戦略的活用で、CO2の吸収効果が期待できる。農業生産法人方式で、IT(情報技術)を使ったマーケティングなど、近代工業国の経験を生かしたシステムを構築すべきだ。

 洞爺湖サミットは、国際金融不安がテーマとなるだろう。現在の世界経済は、実体よりも金融経済が肥大化している。その要因にオイルマネーの横行がある。国境を越えたマネーゲームに一定の縛りをかけるべきだ。例えば国境を越えた為替取引に課税し、国際機関が直接管理する。それを途上国への技術移転や、気候変動を予測するスーパーコンピューターである地球シミュレータの管理などに充てる「国際連帯税」を導入すべきだ。

 排出量取引は技術を開発して削減した人がメリットを得られる仕組みにすべきだ。間にブローカーが入って、何十倍にも膨らましてもうけることがあってはならない。

 環境税は段階的な導入が望ましい。その試金石がガソリン税の一般財源化だ。エネルギーを外部に頼る日本こそ、負担が高くても環境のために使えば意味がある。例えば暫定税率分の1リットル当たり25円のうち15円は地方に還元し、残る10円を燃費効率の良い車への乗り換えを進めるため、自動車取得税減免などの財源にしてはどうか。

 福田ビジョンは出た。問われるのは「実行計画」だ。【構成・足立旬子】

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 「読む政治 選択の手引」は毎月1回掲載します。

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 ■ことば

 ◇平均気温の上昇

 IPCCが昨年まとめた報告書によると、1906~2005年の100年間で、世界の平均気温は0.74度上昇した。報告書は「20世紀後半の気温上昇は、人間活動による温室効果ガスの増加が原因である可能性がかなり高い」と指摘。このまま進めば「21世紀末の平均気温は20世紀末に比べ、1.1~6.4度上昇する」と警告している。

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 ■人物略歴
 ◇てらしま・じつろう

 米国三井物産ワシントン事務所長を経て、現在は三井物産戦略研究所長を兼ねる。60歳。

[毎日新聞]

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Posted by nob : 2008年07月01日 23:00