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相手の立場を知れば自ずと為すべきことが。。。

■リンゼイさん事件で思い出すあの事件、日本の警察と司法は今度こそ

本日の言葉「look him in the eye 」(彼の目をじっと見つめる)

英語メディアが日本をどう伝えているかご紹介する水曜コラム、今週は昨夜のリンゼイ・ホーカーさん事件の容疑者逮捕についてです。たくさんの英メディア記事からは、「やっと…」と溜め息をもらしつつも、悲しい怒りに表情がこわばっている様子が伝わってきます。そんな中、リンゼイさん事件で思い出されるもうひとつの事件の父親が「戦いはこれから」と警告。日本の警察・司法の力量を疑うイギリス人たちを前に、ぜひとも名誉挽回してもらいたいと思います。(goo ニュース 加藤祐子)

立場が逆だったらどう思う

リンゼイ・ホーカーさんの事件を知るイギリス人がどう感じているかは、立場を逆転させてみると想像しやすくなると思います。生物学の学位を最優等の成績とって医学部進学を希望していた22歳の日本人女性が、日本語を教えるためしばらくイギリスで働いていた、と。母国の家族と恋人には頻繁に連絡をとって、外国での生活を楽しんでいたと。電車で向かいに座っていたイギリス人男に「日本語を教えてくれないか」と個人レッスンを頼まれて駅近くのカフェで会ったものの、財布を忘れたと言う男と一緒に男のマンションへ行く羽目になり、それを最後に連絡が途絶えたと。その彼女が、次に発見された時はむごたらしい死体になっていたら。そして彼女をマンションへ誘ったイギリス人男が複数の警官を振り切って逃げ、そして31カ月間も逃げ続けたら。娘の死と男の逃走に激怒する父と家族が、何度もイギリスに渡り、片言の英語で、犯人逮捕のため戦い続けたら。そして整形までして逃げ続けようとしていた男がついに逮捕されたら。もし立場が逆だったら、日本人としてどう思うかということです。

英メディアのほとんどの記事がリンゼーさんの遺体発見時の状況を改めて、淡々と、けれども詳細に書いていることからも、その怒りのほどが伝わってきます。

ITNTVが放送した映像など複数報道によると、リンゼイさんの父ウィリアム・ホーカーさんと家族は、コヴェントリーの自宅近くで報道陣の前に立ち、「長く苦しい戦いでしたが、やっと終わりました。私たちは家族として不眠不休でがんばり続けて、娘のために決して諦めませんでした。私たちはただ正義を求めていたのです。ついに正義を獲得しました」とコメント。「娘の墓に行って、報告できます。家族にとっていい一日でしたが、私たちの生活は二度ともとには戻りません(our lives will never be the same)」と。

父親ウィリアムさん(愛称ビル)はさらに「日本の警察に感謝します。捜査の出だしでひどいヘマをしたものの(after a very bungled start to the investigation)、不眠不休で働き、最後には犯人を捕まえたのですから。捜査責任者の人には、我々は遅かれ早かれ必ず犯人を捕まえますからと言われていた。言った通りになりました」と。日本の警察に対する非難と感謝がないまぜになった複雑な感情がうかがえました。

「日本のためにも捕まってよかった」

娘の死体遺棄容疑で逮捕された市橋達也容疑者についてビルさんは、「市橋はずっと諦めなかった。犯行現場から逃げて、今日捕まったときも、逃げようとしていた。彼は何も後悔していない。日本社会が最大限の刑罰を与えることを期待している」と発言。市橋容疑者が殺人罪で起訴されるような展開になれば公判を傍聴したいと言い、「I want to look him in the eye(あいつの目を真正面から見据えてやりたい)。I want to see his evil eyes myself(あの男の極悪な目を、自分の目で見たい)」と。そして刑罰については「I want to see him locked away forever(永遠に閉じ込めてほしい)」と。さらに死刑を廃止した英国と違い日本にはまだ死刑があることを意識して、「彼は日本で事件を犯したんです。日本当局が何をすることになるのか、それがなんであれ、私たちは受け入れます。終身刑であれ、極刑であれ」と。

ビルさんはさらにこのあと、スカイTVの単独取材に対し、市橋容疑者には「どうしてこんなことをしたのか聞きたい。私の娘は彼に何の危害を加えたわけでもないのに。彼女は素晴らしい美しい娘だった。彼を手伝ってあげようとしていたんだ」と。

さらに「ともかく、捕まって良かった。それに日本の人たちのためにも、市橋が捕まって良かったと思う。市橋は、同じことをまたしたかもしれないから」と。

日本の警察・司法は名誉挽回を

たくさんの英記事に繰り返し出てくるのは、ビルさんが言ったように日本の警察が初動捜査で容疑者を取り逃がし「bungled(失態を犯した)」こと。そしてそれから捜査がなかなか進まず、たびたび来日したホーカーさん一家が「voiced frustration(いらだちを口にしていた)」こと。英タイムズ記事は、市橋容疑者を逃したことで「日本の警察が恥をかかされた(humiliated)」と書いています。

インディペンデント紙は「法の手から逃げようと新しい顔を買った容疑者、逮捕(Suspect who bought a new face to evade justice is held)」という見出しで、「この事件はただちに、英国人ホステス、ルーシー・ブラックマンが殺された2000年の事件と比べられた。ブラックマンさんの死を巡って、対応があまりに遅いと(for dragging their feet)散々批判された日本の警察は、またしてもホーカー事件で捜査を批判されることになった」と書いています。

そうなんです。ルーシー・ブラックマンさんの事件があって(警察の事件着手よりも先に被害者の友人や家族が、捜査を呼びかけて運動。織原城二被告は2007年4月27日に別件の女性9人に対する準強姦致死罪などで無期懲役判決をうけたものの、ルーシーさん殺害については一審無罪。高裁はこれを棄却し、被告が最高裁に上告中)、その一審判決が出る1カ月ほど前にこのリンゼイさん事件があり、そしてリンゼイさん事件で日本に住むイギリス人の多くが怒っていた最中に、よりによってルーシーさん殺害に無罪判決が出てしまった。あの頃、東京に住む私のイギリス人知り合いたちはみんな、静かに怒ってました。

インディペンデント紙はそうした経緯を承知しているのでしょう。ルーシーさんの父ティム・ブラックマンさんの寄稿をすかさず掲載しています。娘の裁判に証人として出廷し、娘を死なせた(だろう)被告と何度も対決してきたティムさんは「この家族の苦しみはまだまだ終わらない(This family's ordeal is far from over)」と警告。私も、ホーカーさん家族がさかんに「やっと戦いが終わった。ようやく終わった」と繰り返しているのを見て気になっていたのですが、ティム・ブラックマンさんも同じ心配をしているようです。

「リンゼイ殺害の主要な容疑者が逮捕されて、これでやっといくらかの正義が実現されたと、家族がそう思う気持ちはよく分かります。しかし、これから先には長い道のりが待ち受けています。日本の司法制度に関わっていくという道のり。そして自分たちの悲しみに対応していくという道のりです。(中略)これから待ち受けている司法手続きは、とても時間がかかるものです。織原城二(被告)の逮捕から判決までには7年もかかり、控訴はまだ続いているのですから」と。

ルーシーさん裁判が始まったときと今では、司法改革が多少は進んで事情が違っているかもしれない。それが一縷の望みです。ブラックマンさん家族が味わった砂を噛むような思いが、裁判の迅速化とか裁判員裁判制度の導入で少しは改善されるよう、ホーカーさん家族の苦しみが少しでも軽減されることを祈ります。日本の警察はひどい大失態をなんとか取り戻しました(フェリー会社の大手柄です)。日本の司法は、娘を奪われた家族の思いに、今度こそきちんと応えられるでしょうか。

[goo]


■英会話講師を殺した安全な国
コリン・ジョイス

 千葉県行徳にある1軒のバー。欧米人の若者6人が静かに言葉を交わし、ときおり互いを慰めるように肩に手を当てている。入り口には日本人のメディア関係者が頻繁に姿を見せるが、そのたびに丁重な口調で門前払いをくっている。

 テレビがあのニュースを報じると、音楽が消され、会話もやんだ。画面に映ったのは、笑顔を浮かべる魅力的な若い女性の写真。1人の女性が「こんなのばかげてる。ふざけてる」と声を荒らげた。あるイギリス人男性は、ビールのグラスを見つめたまま涙を浮かべた。

 日本に暮らす多くの若い外国人、そしてさらに多くのイギリス人にとって先週、日本は恐怖に彩られた国となった。英会話学校大手NOVAに勤務していたイギリス人講師リンゼイ・アン・ホーカー(22)が殺害された事件は、日本は「安全な国」だと信じていた英会話講師たちを驚愕させた。

 ホーカーの命を奪ったのは、そうした過信だったようだ。千葉県警によれば、ホーカーは3月25日、数日前に知り合った28歳の無職男性、市橋達也容疑者(4月1日時点で死体遺棄容疑で指名手配中)の自宅を訪れた後に殺害された。

 市橋は犠牲者をバー、または西船橋駅で見かけたとみられる。自転車で帰宅するホーカーを家まで追いかけ、会話をした後、水を飲ませてほしいといって部屋へ入ったことがわかっている。市橋はそのとき、自分の名前と電話番号を書いたメモを渡し、英会話の個人レッスンを依頼。不幸にも、ホーカーはその申し出を承諾した。

「少し世間知らずで、人を信用しすぎたのかもしれない」と、ホーカーの知人の1人は言う。「でも、被害者を責めるなよ。彼女が死んだのは、頭のいかれた男に出会ったからだ」

 イギリスでは、ひもで縛られた若い英国人女性の遺体が砂を入れた浴槽から発見されたという恐ろしいニュースを受け、日本から娘を帰国させようとする親が続出している。英リーズ大学在学時からホーカーの親友で、同僚でもあった女性も帰国する予定だという。

 今から思えば、市橋の行動は警戒してしかるべきものだった。「家まで追いかけてきた男のことは心配しないで。日本って変なのよ」——ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「フェイスブック」に残されたホーカーのメッセージは、結末を知る者にとって痛ましい。

 ただ、生徒の自宅で英会話の個人レッスンをすること自体は、教師が女性で生徒が男性であろうと珍しいことではないと、英会話講師らは口をそろえる。講師の平均年収は300万円ほどで、決して高額とはいえない。かなりの授業時間を受け持たされる一方で休暇が少ないため、2、3年でやめる講師も多い。より実入りがいい個人レッスンは、渡航費や当座の生活資金を埋め合わせるための大切な副業なのだ。

外国人女性が陥るワナ

 ホーカーやその同居人、友人の多くが勤めていたNOVAは、ときに「英会話学校界のマクドナルド」と称される。駅前で定番の存在であるだけでなく、授業が徹底的にマニュアル化されているからだ。そのため英会話教師として正式な教育を受けていない外国人でも、簡単に講師が務まる。

 とはいえ、昨年10月からNOVAで働きはじめたホーカーは、理想的な教師だったようだ。「12月に入学したら、最初の担当講師がリンゼイだった」と、ある23歳の生徒は言う。「気さくでよく笑う、魅力的な人だった」。ある子供のノートには、ホーカーが授業で描いた果物の絵が残っていた。

 日本の英会話講師という職は、多くの外国人にとって「キャリア」というよりも「異国体験の手段」だ。オーストラリアやタイのビーチまで足を延ばすために、貯金をする者もいる。

 だがホーカーにとって、教師は夢だった。来日した父親ウィリアムは記者会見で語った。「教師になるために日本へ行った娘を誇らしく思っていた......誰でも助けようとする優しい子でした。だから、こんなことになったのです」

 日本は安全だという評判は外国人女性にとってワナにもなりうると、日本に長く住む外国人は言う。

「日本人は欧米人に親切だから、信頼していいのだと安心しきってしまう」と、東京在住のイギリス人で、日本に住む外国人女性向けの著書があるキャロライン・ポーヴァーは指摘する。「夜も1人で出歩けるし、好きな格好もできる。日本人男性のほうが、なんとなく肉体的な威圧感も少ない。でも、警戒心を捨ててはいけない」

「交際」報道に憤る遺族

 ホーカーが日本での生活を満喫していたことは確かなようだ。フェイスブックには、友人と飲んでいる写真や、情熱と愛情に満ちた文章が載っている。6月には、恋人のライアン・ガーサイドも英会話講師として来日する予定だった。

「娘は日本を愛していた。日本人と出会うことが好きで、日本は信頼と敬意に基づいた素晴らしい国だと考えていた」とウィリアムは4月1日に声明を出した。

 よく顔を出していた行徳の数軒のバーでも、ホーカーは思いやりのある気さくな女性として評判だった。ある知人の男性によれば、英文法の教科書を持ってバーに現れたこともあるという。会話だけを教えることが多い英会話講師としては珍しいことだ。

 ホーカーの同僚らは犯人だけでなく、メディアにも怒りを感じている。ホーカーと市橋が「交際していた」という報道によって、親族や友人は傷つけられた。彼らが記者にほとんど口を開かないのは、事実を歪曲して2人に「関係」があったと報じたがるメディアに不信感をいだいているからだ。

 今回の事件はイギリス国内で、2000年に日本で行方不明になり、翌年死体で発見された英国人女性ルーシー・ブラックマンの事件の記憶をよみがえらせた。市橋の自宅前で職務質問中に逃走を許した県警の能力を疑問視する声もある。だがブラックマン事件と違って、容疑者の顔写真をただちに公開するなど、初動捜査が迅速だった点は評価されている。

 ホーカーの同僚が集う行徳のバーでは、テレビに映った市橋の顔写真が冷たい沈黙で迎えられた。

「ここは暮らしやすい場所だった。家賃は手ごろだし、東京から近いので、多くの英会話講師が喜んで住んでいた」と、あるバー経営者は言う。「だが1人の女性の不運な過ちと、1人の頭のおかしい男がすべてを変えてしまった」

[ニューズウィーク日本版]

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Posted by nob : 2009年11月11日 15:10