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■ちきりんの“社会派”で行こう!:
北朝鮮はそんなに簡単に崩壊しない

金正日総書記の急死で「北朝鮮の独裁体制が崩壊するのでは?」という期待が高まっています。しかし、ちきりんさんは「北朝鮮はそんなに簡単には変わらないのでは?」と分析します。

 金正日総書記の急死でにわかに「北朝鮮の独裁体制が崩壊するのでは?」という期待が高まっていますが、ちきりんは北朝鮮はそんなに簡単には変わらないと考えています。

 「飢えに苦しむ多くの人たちが耐えられなくなる」とか「独裁体制に不満が溜まって暴動が起こる」という形での体制崩壊は、残念ながら北朝鮮では起こらないでしょう。

 アラブや中東などとは異なり、一般人民は恐怖政治で過激な動きなどとれません。戦時下の日本もそうですが、ちょっと変な動きがあればすぐに秘密警察にしょっぴかれるわけで、国の体制をひっくり返せるような暴動が起こせるとは考えにくいです。せいぜい亡命が増えるくらいでしょう。

 それに、国全体が飢えていても権力側の人には何の関係もありません。「食べるものもないのに、国がもつわけがない」という考え方は素人です。国がいくら貧しくても、権力者はちゃんと食べているのです。

 政権を支えている軍部のトップだって権力者側ですから、今の体制が崩壊して自分たちに得なことは何もありません。民主化や平和は、軍部にとって望ましい状況じゃないんです。彼らは平和になったら失業してしまうし、今持っている特権的な立場も失ってしまいます。

 そして北朝鮮が簡単に崩壊しない最大の理由は、北朝鮮だけでなく“関係国全部”が、北朝鮮の現体制が続くことを期待しているという点にあります。韓国も中国も北朝鮮の崩壊なんて望んでいないのです。

 だって北朝鮮が崩壊したら韓国は本当に大変です。ベルリンの壁崩壊前、西ドイツは世界第3位の経済国で、かつ東ドイツも共産国としては優等生であったドイツでさえ、統一後は大変苦労しました。韓国が北朝鮮を丸抱えするのは負担が大きいでしょう。

 一方、中国も北朝鮮の崩壊を全力で阻止したいと思っているはずです。北朝鮮が崩壊すれば、韓国ほどではないにしても移民の受け入れなど、中国にも甚大な経済的負担が発生します。

 さらに、中国は鴨緑江沿いに長い国境を北朝鮮と接しています。韓国が北朝鮮を併合してしまうと、この泳いで渡れる川の向こうにいきなり韓国が出現するわけで、今までは「北朝鮮から中国に人が逃げてくる」方向でしたが、それがいきなり反対に変わってしまうかもしれません。

 加えて、在韓米軍は川のすぐそばに中国に向けたミサイルを配備できるようになります。「米軍が自由に移動できる韓国」という国と、長距離にわたる国境を接することになるのは、中国にとって何としてでも避けたいことでしょう。

 中国は、できるならば北朝鮮にも自分たちと同じように、ソフトランディングによる資本主義化を進めてほしいと思っているでしょうが、一方でそれが難しいことも理解しているはずです。

 いったん国を(経済的に)開放するといろんな情報が入ってきます。そうすると経済的自由の次に、人々は政治的・思想的な自由を求め始めます。

 中国でさえ、そういった自国の体制への反発を“反日”にすり替えることで国民の不満を懐柔せざるを得ない状態です。それよりずっと厳しい状況にある北朝鮮の場合は、いったんタガを外すと“反日運動”へ不満を向かわせるくらいでは収まらないレベルのフラストレーションが噴出するでしょう。

 中国としては、「北朝鮮を親中国・反米の国のまま、崩壊させずになんとか維持したい」というのが本音だと思います。

誰も崩壊を望んでいない

 また、どこの国も、軍事的に北朝鮮の体制を崩壊させたいと思っていません。米国はイラクのフセイン大統領を軍事力によって排除しましたが、彼らが北朝鮮の金政権打倒のために積極的なアクションをとることはありえないでしょう。

 北朝鮮が核を持ったといっても、カリフォルニアの大都市を狙うのはまだ相当に難易度が高く、米国にとってこれが最大の軍事的な脅威であるとは思えません。

 さらに、米国にとってイラクと北朝鮮は2つの点で大きく異なります。まず北朝鮮には石油がでません。民主化するメリットがないのです。

 さらに北朝鮮はイラクと違って、今や米国の仮想敵国である中国の利害と絡んでいます。米国がイラクに侵攻しても中国は不快感を示す程度ですが、北朝鮮の場合はそんな程度では収まらないでしょう。

 石油も出ないし、中国を怒らせるのもややこしい。独裁者には頭にくるし、核を持つなど困ったモノだけれど、だからといって今すぐ武力でどうこうする必要はない、というのが米国の本音だと思います。

 韓国も「北朝鮮も同じ民族に核を落とすことはない。落とすなら日本に落とすだろう」と思っているでしょうから、本質的には核を保有していることを怖がっているとは思えません。韓国が最も怖れているのは、朝鮮半島でまた戦争が起こることであり、次に怖れているのは北朝鮮の突然の崩壊により、ソウルが難民であふれることです。

 「統一できないままずっと分断されている」こともこわいかもしれませんが、それより戦争や突然の崩壊への怖れの方が、圧倒的に大きいというのが韓国の正直な気持ちではないでしょうか。「自分たちで武力制圧してでも南北統一」なんてことは、もはや夢にも考えていないと思います。

 ということで……「この問題は解決しない。その理由は、誰も解決を真剣に望んでいないから」というのがちきりんの結論です。誰も望んでないことは起こりません。北朝鮮の崩壊を望んでいるのは、人権活動団体と、ちきりんのようなミーハー的な興味のある人だけです。残念ながらそんな人には何の政治力もないのです。

 そんじゃーね。

[Business Media 誠]

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Posted by nob : 2011年12月29日 18:02