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■「原発ゼロ」世界に説明 IAEA総会開幕
【ウィーン=宮本隆彦】国際原子力機関(IAEA)の年次総会が十七日、ウィーンの本部で始まった。日本代表団の山根隆治外務副大臣は「二〇三〇年代に原発稼働ゼロを可能とする」ことを目標にした東京電力福島第一原発事故後の新たなエネルギー政策を説明した。
山根氏は日本政府が事故後「国民が安心できるエネルギー構成を目指し、国民的議論の中で政策を見直してきた」と説明。原発ゼロ方針は国民の広範な支持を得ていると訴えた。一方で「情勢の変化に柔軟に対応する」と見直しの余地も残した。脱原発の過程でも、安全確保の人材育成や技術開発を約束した。
日本の表明を受け、フランス政府代表は報道陣に「日本の決定を尊重する」と述べた。フランスは使用済み燃料の再処理で日本の核燃料サイクルに関わっており「率直な議論の必要がある」と述べた。韓国代表団は「日本の決定には驚いた。われわれには依然として原子力は重要だ」と述べた。
原発ゼロ方針にはこれまでに、二二年までの脱原発を決めたドイツが「助言や支援が可能だ」(政府報道官)と歓迎。原子力分野の政策、産業の両面で日本と密接な関係がある米国はゼロ方針に懸念を表明している。
IAEAの天野之弥事務局長は冒頭演説で、福島原発事故の包括的な報告書を一四年中に作成すると表明した。原発の安全確保には「昨年の総会で承認された原発の安全指針『行動計画』の実施が焦点となる」と指摘。事故を教訓に原子炉冷却のための代替電源の重要性が広く世界で認識されるなどの成果もあったと述べた。
十七日の総会では、福島原発の現状を説明する特別会合も開かれた。総会は二十一日まで五日間の日程で開かれ、軽水炉建設が進む北朝鮮の核問題やイランの核開発疑惑なども協議する。
[東京新聞]
■原発ゼロ 空手形に終わらせるな
政府が原発の将来の姿などを示した新エネルギー戦略を決定した。「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」との目標を盛り込んでいる。
「原発ゼロ」を掲げた点は評価できるが、はっきりしない表現や矛盾した内容が目につく。経済界などが反発しており、努力目標に終わる恐れがある。実現には、法律に裏付けられた目標と具体的な工程表が欠かせない。
次期総選挙の争点でもある。各党が曖昧さを排した明確な理念と政策を打ち出し、さらに論議を深める必要がある。
<法律の裏付けが要る>
新戦略の特徴の一つは、原発ゼロ目標を打ち出したことだ。
(1)40年運転制限を厳格に適用(2)原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ再稼働(3)原発の新設・増設はしない―の3原則を掲げ、「30年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」と宣言した。
政府は、30年の総発電量に占める原発の比率について、「0%」「15%」「20~25%」の三つの選択肢を掲げ、全国11都市で意見聴取会を開いたり、意見公募をしたり、かつてない規模の「国民的な議論」を試みた。
新エネルギー戦略は、脱原発を望む強い世論に後押しされ、ようやくまとまったといえる。
だが、「30年代」「可能とするよう」の表現は玉虫色だ。脱原発に向けた具体策も先送りされた。22年末までに全原発を閉鎖する法律を成立させたドイツのメルケル政権と比べ、野田佳彦政権の方針の危うさは一目瞭然だろう。
<核サイクルを棚上げ>
このままだと、政権が代われば方針が反故になりかねない。まして民主党には「公約破り」の前例がある。本気で原発ゼロを目指すというのであれば、首相は根拠となる法律の成立に「政治生命を懸ける」べきだ。脱原発を掲げる他の政党とともに、国会で成立にこぎつけてもらいたい。
新エネルギー戦略の特徴の二つ目は、核燃料サイクルの維持を盛り込んだことだ。
青森県六ケ所村の使用済み核燃料の再処理工場を継続し、同県を廃棄物の最終処分地にしないとの約束を明記している。一方、福井県の高速増殖炉「もんじゅ」は、廃棄物を減らす研究施設にするとした。存廃について不透明となった印象は拭えない。
原発で使用されたウランやプルトニウムを再処理し、利用するのが、核燃料サイクルである。このサイクルを担う主な施設が、青森県の再処理工場だ。「もんじゅ」は使った以上のプルトニウムを生産する「夢の原子炉」と位置付けられてきた。
だが、再処理工場は高レベルの放射性廃液をガラス固化体にする過程に問題が生じ、本格操業に入れないままだ。「もんじゅ」も、ナトリウム漏れ事故をはじめトラブルが絶えず、再稼働にめどが立っていない。
再処理工場は着工から19年、「もんじゅ」は27年である。巨額の投資を続けても、技術的な壁を越えられない現状に、核燃料サイクルは破綻しているとの声が高まり、見直しが求められていた。
青森県は核燃料サイクル路線からの撤退によって、使用済み核燃料や高レベルの放射性廃棄物の最終処分地になることに強い警戒感を抱いている。再処理事業の継続には、国策に協力してきた同県への配慮がある。
核燃料の再処理など原発の技術は、米、英やフランスとの連携で進められてきた。関係国とのこれまでの経緯も、サイクル路線維持の背景とみていいだろう。
だが、「30年代にゼロ」というのであれば、その時点で核燃料は不要になる。燃料確保の観点からは、核燃料サイクルにこだわる理由はなくなる。
<曖昧さ排した論議を>
原発ゼロを宣言しておきながら再処理を続ければ、核兵器の原材料となるプルトニウムの生産と受け取られる懸念がある。原子力の平和利用という点でも、国際社会に対して説得力を欠く。
中途半端な姿勢をあらため、政府・民主党は路線転換に向けた姿勢を示すときである。踏みこんだ決断を求めたい。
福島第1原発の事故から1年半。大事故を起こしながら、原因や責任の所在も明確になっていない。再稼働や核燃料サイクルの是非、将来のエネルギー計画などをめぐる国会の議論も、国民の目から見て不十分だ。
「曖昧な日本」という言葉が思い浮かぶ。作家の大江健三郎さんがノーベル文学賞を受賞した際の講演「あいまいな日本の私」からの連想である。あれだけの事故を起こしながら、多くのことが曖昧なまま時が過ぎてきた。
野党の責任も大きい。原発停止を求めて、かつてない規模のデモが起きている。国会は、国民の声を正面から受け止めているのだろうか。事故を踏まえた新たな制度の構築は、国会の責務である。
[信濃毎日新聞]
■米紙ワシントン・ポスト、日本政府の「原発ゼロ」に懸念表明
【ワシントン=中山真】米紙ワシントン・ポストは17日付の紙面で「日本の原発ゼロの夢」と題した社説を掲載し、2030年代に原発稼働ゼロを目指す日本政府のエネルギー・環境戦略について「経済コストや地球温暖化への深刻な犠牲を伴う」などと懸念する見解を表明した。
同社説は昨年の福島第1原子力発電所事故によって多くの日本人が(原発事故による)土壌汚染や緊急避難への危機意識を持ったと説明。日本人が原発がない将来を夢見るのは理解できるとしながらも、代替エネルギーに関する日本政府の説明は「反原発活動家の主張を取り込んだ」実現性の低いものと批判した。
特に地球温暖化への取り組みには日本の原子力の設備やノウハウが安全性を維持できる限り「貴重な資産」となると強調。原発によって日本が温暖化ガスの排出量をより抑制できる点を指摘し、原発を稼働しておくことの重要性を強調した。
ただ、社説では今回の決定は単なる政治的なもので、民主党が次期衆院選での大敗を防ぐために強硬姿勢を示したとの見方があるとも指摘。「その場合、国民は政府によって踊らされただけということになるが、世界第3位の経済大国の電力供給に柔軟性が残るという利点もある」と締めくくった。
[日本経済新聞]
■原発ゼロ目標後退:憤る市民、被災地 「全くひどい」
「国民をばかにしているのか」−−。2030年代に原発稼働ゼロを目指すとした「革新的エネルギー・環境戦略」を政府が決定してわずか5日。この戦略の閣議決定が見送られたことに、原発に反対してきた市民や東京電力福島第1原発事故の被災地の首長らから怒りの声が噴出した。
「パブリックコメント(意見公募)で国民の多くの人が『原発0%』を求めていた。閣議決定の見送りは国民の声の無視に他ならない」。首相官邸前での反原発デモを呼びかけている市民団体「首都圏反原発連合」のスタッフ、原田裕史さん(45)はこう憤った。
核燃料サイクルの継続など矛盾をはらんでいた政府の戦略。19日に発足した原子力規制委員会の人事に抗議している国際環境NGO「FoE Japan」理事の満田(みつた)夏花(かんな)さん(45)は「目標自体があいまいで矛盾を抱えていたが、政府として決めたことを閣議決定しないとは」。
[毎日新聞/19日追加]
■上関原発建設「認めない」
革新的エネルギー・環境戦略が19日、閣議決定に盛り込まれたことを受けて、枝野幸男経産相は、閣議後の会見で、中国電力上関原子力発電所(山口県上関町)など着工前の原発について、建設を認めない方針を明らかにした。
枝野経産相は「原発の新増設はしない」などと掲げた革新的エネルギー・環境戦略を挙げ、「新たな建設の許可を与えることは原則に反する」と強調。計画段階の原発について事業者側が許可を申請した場合も、認めない考えを明らかにした。
経産省は2013年度の概算要求で立地自治体への交付金を従来通りの基準で計上しているが「建設前の原発にもいろんなプロセスや状況がある。交付金などは今後、精査する必要がある」とした。
[中国新聞/19日追加]
Posted by nob : 2012年09月18日 09:47