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そのとおり!!!Vol.25、、、大多数の物差しをわかったうえで、そこから距離を置くことができるかどうか。視点を引いて見られるかどうか。それが自分軸をつくるうえで一番難しい。。。

■成功しなくても、自信を持つことはできますか?
対談:竹中平蔵×為末大

 元プロアスリートで、著作、ツイートでも幅広い人気を持つ為末大さん。先日行われた東京・アカデミーヒルズでの講演「『自分軸』のつくりかた」のあと、竹中平蔵・アカデミーヒルズ理事長との対談が行われました。「為末×竹中」という異色の組み合わせ、話はいったいどんな方向に向かうのか、お楽しみください。最初に1ページだけ、対談につながる講演内容を抜粋してお読みいただき、2ページ目から対談に入ります。(構成:中沢明子)

 僕は自分の競技人生を振り返ったキーノートを作っています。今日は、それをもとに思いついた約30個のキーワードを見ながら、「個の時代」をテーマに「自分軸をつくる」ということをお話しさせていただきました。

 たとえば「成功=勝利」。僕はアスリートですから、自分にとっての勝利条件を考えると、最初にゴールした人が勝ち、というわかりやすさがあります。でも、引退した今、人生という舞台で考えると、何が勝利か、決めるのは結構難しいものだなと思っています。

 ある人は政治の世界で上がっていくことと言い、ある人はお金持ちになることだと言い、もちろん僕の後輩たちはスポーツで一番になるのが勝利だと言う。それぞれの人生でいろんな勝利がありますが、何か一つに統一してしまうと、実はそれが自分軸を阻害するのではないか。僕は今、そんなことを考えています。というのも、勝利条件を「自分で決める」のは実は難しいと思うからです。何が勝利か。ある程度、引いてみないと、つまり、比較対象がないとわからないのではないでしょうか。

 子どもは成長する過程で「何々ができてえらいね」と褒めてもらえますが、それを繰り返すと子ども心にだんだん「どうもこの方向で自分は抜きん出ていて褒めてもらえるんだ」と気づきますし、逆もしかりです。

 つまり、物心つく前から人間は世の中にある価値観の物差しのなかで生きている。それによって、多くの人が「成功」だと言っているものを僕達は「成功」と信じているんじゃないか。そうしたマジョリティーの評価ってなんだろうな、と思うと同時に、マジョリティーを意識することは、とても重要だと考えるようになりました。

 大多数の物差しをわかったうえで、そこから距離を置くことができるかどうか。視点を引いて見られるかどうか。それが自分軸をつくることの一番の難しさだと考えています。他人との比較で「自分はすごい」と自慢するにも他人がいないとできませんからね(笑)。

 他人からどうしたって離れられない。自分自身を世の中に認めさせたいという思いが強ければ強いほど、世の中が評価するものから離れがたい。

 しかし最終的に、自分自身が満たされる「勝利」や「成功」は、自分軸に沿ったものでなければならないと思うのです。

竹中:為末さん、今、おいくつでいらっしゃいますか。

為末:34歳です。

竹中:私は34歳の頃、為末さんのように深く考えていなかったなあ……。

 「人生は有限だ」とご講演でおっしゃっていましたね。私はもう60歳を超えましたが、60歳近くになってようやく、人生は有限で、その中で自分が本当にやりたいことをもっと大事にしていこうと改めて気づきました。でも、為末さんは陸上競技という極限のスポーツと向き合いながら、ずっとそうしたことを考えてこられた。

 それで、勝利、成功という言葉に関連する質問ですが、人生を語る時、やはり、「幸せかどうか」という概念は重要なポイントだと思います。為末さんはどのように「幸せ」を位置づけていらっしゃいますか。

為末 大(ためすえ・だい)
1978 年広島県生まれ。日本では未だに破られていない男子400mハードルの記録保持者(2001年エドモントン世界選手権 47秒89)。また、2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」を設立。現在、代表理事を務めている。 2012年に現役を引退。オフィシャルサイトは「為末大学」。

為末:「今」をどうとらえるかだと思います。

 最初のメダルを取った時は、メダルさえとればスターになって、その後もハッピーな人生が待っていると信じて頑張りました。

 でも、最初の数カ月が過ぎると、メディアは「銅メダルの次は何色のメダルですか」とたずねるんですね。考えてみれば当然の質問です。ただ、そうなると、この陸上競技という“山登り”はいつまでたっても終わらないんだな、と感じました。

 山登りに例えるのは、僕がそんな人生観だからですが、山頂に行けば全部解決するわけではなかったんですね…解決すると思っていたんですけれど(笑)。

成功につながらない努力には、何か意味があるのか?

為末:それで、山頂に辿りつくために今この山登りを耐えるという世界観ではなく、今この時の山登りを充実させるために山頂を「設定」していると、いつしか考えるようになりました。そして、「幸せ」は、今この時の山登りを自分がどう感じて生きているか、にかかっているのではないか、と思うんです。

竹中 平蔵(たけなか・へいぞう)
経済学博士
1951 年和歌山県生まれ。1973年一橋大学経済学部を卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)に入行。89年米ハーバード大学客員准教授。2001〜 06年に経済財政政策担当相、金融担当相、郵政民営化担当相、総務相を歴任。2006年から慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長。アカデミーヒルズ理事長も勤める

竹中:なるほど。もうひとつ質問させてください。「自分はここまで来た。そして、これまでライバルもたくさんいたし、その人たちは決して努力しなかったわけではない」という話もされていましたね。

 実はその人たちはその人たちとしてすごくいい人生を送ってこられたんだろうな、と私は思います。私の好きな言葉で「dream an impossible dream」という言葉があります。「impossible dream」、見果てぬ夢を見る。つまり、見果てぬ夢であっても、上っていくプロセスそのものの達成感が、おそらく人生の中ですごく重要な意味をそれぞれに持っていると思うんですね。

 為末さんは世界選手権でメダルを取るという、極限の達成感までいかれたわけですが、そこに至らなかった方も、人生で同じように為末さんのように考えてこられたのではないでしょうか。

竹中:ですから、「impossible dream」なのか、「possible dream」なのか、その夢を低すぎず、高すぎず、適度に設定できたかによって、結果的にその人の満足度が決まるのではないか。ご自分の努力も大切ですし、何らかの運もあるでしょうけれど。

 私たちの人生は本当に短い。しかしだからこそ、その人生を大切にしたいなと歳を重ねるにつれ思うようになり、夢の設定位置について考えています。

 そこで、為末さんにとっての「possible dream」をお聞きしてみたいです。

為末:僕はとにかく金メダルを取りたかったんです。世界一に1回なってみたかった。結局なれませんでしたが、そういう意味では幸せです。金メダルを取ってやるという強い気持ちで、全身が野心に染まった何年間がありました。あの興奮はやっぱりすごかったと思います。

 あまりにも過程の興奮に価値を置きすぎてしまうと、夢がかなう、かなわないと幸福感は関係が薄くなりますし、それなら今やっていることをずっとやっていてください、という話になります。ですから、もう少しそこは戦略的に考えてもいいと思いますが、結果からだけ報酬を得るのではなく、努力というプロセス自体からもある程度報酬を得るということは大事な気がします。

 結果とプロセスのバランスが白黒つけづらくて難しいですが、自分の中で「幸せ」を考える時、何となくそのあたりが要諦になると思っています。

成功しないまま、自信を持つことはできるのか?

竹中:ご講演で為末さんがおっしゃった、マジョリティーの物差しからどれぐらい距離を置けるのか、という部分が問題になってきますね。他人に認めてもらうことから距離を置く。自分の納得する目標を掲げつつ、自分がどこまでできたかではなく、自分は全力を尽くしたという達成感を持つ。幸せかどうかは、そこにかかっていると。

 でも、マジョリティーの物差しから距離を置くことは、実はトートロジー(同語反復)です。自信がないと距離は置けません。その自信は、ある程度人に認められて何となく出てくるものだと思います。

 ですので、為末さんは目標を成し遂げ、自信が持てたために、「マジョリティーから距離を置くことが重要だ」と言えるようになったとも、私は思います。

為末:取りあえず「勝ってみないと分からない」世界はあるのかもしれません。僕は自分が最初に決めた目標をほぼ達成して、人から認められ、だけど、どうもそれだけでは幸せになれないな、こんなに簡単な話で満足できないな、といった気分になりました。

 それははたして、一度夢をつかんだところで変わったのか、それとも結果が出なくてもやり切った人はそう感じるのか。自分の心持ちを思い返すと、僕の場合は、ある程度最初に設定した目標を達成した後に変わったように思います。ですから確かに、何かそこが矛盾している、と思いますね。

竹中:なるほど。我々はマジョリティーの物差しから独立していたい、インディペンデントでありたいと思えるために、ある程度の実績がなければいけない。そうした矛盾と葛藤の中に私たちは皆、いるのだと思います。

為末:そうですね。難しいし、そのバランスも常に変化していると思います。

竹中:その矛盾をどう乗り越えるかを考え始めると、「努力か、才能か」という話につながってきますね。努力すれば自信が持てるのか、才能にはかなわないと諦めるのか。

 為末さんは、ウサイン・ボルト選手の例をあげて「ものすごいものに理由はない。魔法や秘密はないのではないか」ともおっしゃっていました。非常に興味深い指摘です。

 実は、先日、慶應大学環境情報学部の小論文で「暗黙知」と「形式知」に関する面白い問題があったんですが、それは徒弟制度の話なんですよ。徒弟制度は理屈で教えず、とにかく師匠のまねをずっとしろ、というのが基本です。落語家も聞かせてくれるだけで何もやってくれない。スポーツも楽器もそうですよね。上手な先生が基本的なことは教えてくれるけれど、技術を習得したら、後は見よう見まねでやる。

 そこで、スポーツで「この筋肉が太い」といった数値を測るのと同じように、徒弟制度の師匠の動きを全部解析しようというプロジェクトがあります。「この手の動き方はどうなっているか」というのをできるだけサイエンスで解明しようとやっています。

「あなたが特別な人とは思えない」

為末:ほう。

竹中:それはそれで意味がまったくないわけじゃない。だけど、結局最後のところは、師匠が秀でている理由は、よくわからないんです。

 だから徒弟制度は意味があるんだという指摘、それに関連してあなたはどう思うかというような小論文でした。この問題はなかなか難しいと思ったんですが、実は政治の世界も徒弟制度みたいな部分がありますし、これはすべての人の人生においても言える気がしています。

為末:その点については、僕の2年後にメダルと獲得した末續慎吾くんが面白い例だと思います。

 彼は200mの選手で、僕のハードルよりメダルを獲得するのが難しいのですが、合宿生活を一緒にしていたんです。それで彼が「あなたが特別な人とは思えない。食べているものも一緒、練習も同じくらい、だから自分にもできるかも、という気になった」と言うんです。

 つまり、徒弟制度のひとつの特徴はマインドセットではないでしょうか。芸能人の子供がよく芸能人になるのは、芸能界は「向こう側の世界」ではないと自然と体感しているからだと思います。

 もうひとつ、細部を気にしすぎると全体が崩れてしまうことがスポーツの世界には結構あります。

為末:僕も足の動きが気になって、個々の軌道をきれいに矯正したのですが、全体的にみると、上半身がそのせいでねじれてしまったんです。要は一箇所を切り取っていじくろうとすると、全体のバランスが崩れてしまうことがあるんですね。

 本当のコツは、全体の調和を最優先にしながら短所を調整することです。そして、それは暗黙知の世界でないと得られないと思っています。

 ある程度までは形式知で絞っていき、最後は暗黙知で全体を整えるとすれば、徒弟制度のような、空気から得られる学びを尊重することはかなり大切ではないでしょうか。

竹中:達成感を得られる水準に持っていくには、最後は複合的なバランス感覚が必要、と。非常に示唆に富んだお話です。大事なものが多いと手段がブレるということですね。

 行動経済学の有名な話を思い出しました。例えば1000円のAランチ、Bランチ、Cランチが食堂で供されているとします。しかし、なぜかいつもAランチを選ぶ人がいる。

為末:なぜでしょうか。

俯瞰して、自分をうまく操ろう

竹中:それは、BやCを選んだ時、いつものAを失うからです。

 我々は得られるものよりも失うものに対してとても敏感で、センシティブになるんですね。だから就職先も簡単に変えられない。恋人は簡単に変える人がいるかもしれませんけれども(笑)。

 失うものに対して非常に保守的であることは、今までの制度にしがみつくことです。ですから、為末さんがおっしゃったように、視点を離して見る、俯瞰する、という方法は、おそらくとても重要です。

 自分で自分をプロデュースするなら、あまり目前のことにこだわらず、自分がどう見られているかという視線にも固執せず、もっと自由に選択して、自分軸を持って生きようよ、だって人生は有限なのだから。為末さんからそんなメッセージを受け取りました。

為末:自分は独り立ちできると思い過ぎても、何となくうまくいかないとか、失敗したときのダメージが大きいような気はします。ある程度、自分のエゴなどをマネージメントして、「ここは満たしどころ」「ここは我慢しどころ」といった感じで上手にコントロールできるといいですね。

竹中:なるほど。ではたとえば為末さんが満たされるのは、どんな場合ですか?

(後編に続きます)

[日経ビジネス]

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Posted by nob : 2013年05月09日 11:17