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彼の真意がどこにあれども、、、脱原発への影響力に期待。。。Vol.6

■小泉元首相の脱原発発言が大きな波紋
安倍首相は君子豹変できるか
田中秀征 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授]

 小泉純一郎元首相は、10月1日、名古屋での講演であらためて日本が脱原発の方向に進むべきだと強調した。

 彼が元首相であること、自民党員であること、そして未だ突出した国民的人気の持ち主であることによって、この発言は段違いの大きな衝撃をもたらしている。

 特に、安倍晋三首相にとっては実に悩み深い。世間は安倍首相を小泉元首相の弟子と受けとっている。小泉元首相に引き立てられて最高指導者になったとも見られている。だからこの発言を無視したり、軽視したりして済む立場ではない。

 安倍政権の原発政策は、基本的には民主党政権の「何となく再稼働」路線を踏襲してきた。民主党政権は、脱原発を唱えながら再稼働を容認するという邪道を選んだが、この前政権の道を安倍政権は当然のように進みながら、次第に原発事故以前の路線に戻りつつあるように見える。

 今回の小泉発言は、この「何となく再稼働」路線に大きな転換を迫るものだ。

 折から東京オリンピックの開催決定によって、日本の原発政策は今まで以上に国際的関心事となり、少なくとも開催までの7年間は、世界が常に日本の原発の動向を監視することになった。言わば、日本の原発政策は特別厳しい国際監視の対象となったのである。

 一体、日本の既定の原発政策はこの監視に耐えられるのだろうか。とても耐えられるとは思えない。

 私はオリンピック開催決定による内外の世論の変動と今回の小泉発言によって、今後の日本の原発政策は振り出しに戻ったと認識している。

困難な郵政民営化を実現させた
小泉元首相の正面突破力

 さて、小泉氏は一昨年の大震災直後から、地元の講演などで従来の原発政策を転換すべきことを訴え始めていた。ここに来て一段とその主張を強めたのは、8月にフィンランドの原発最終処理施設を視察したからだと言う。

 名古屋での小泉発言は東京新聞(10月2日)などで要旨が報道されているが、次のような発言が特に注目される。

「“原発をゼロにする”という方針を政府・自民党が打ち出せば、循環型社会をつくる夢に向かって国民は結束できるんです。そうすれば世界が日本を手本にする」

 そして「ピンチをチャンスに変える方針を決めるのが、政治の仕事なんです」と強調した。

 私は発言内容を知ってすぐに2001年の小泉内閣発足直後の出来事を思い出した。

 小泉首相に声を掛けられて赤坂の居酒屋で待っていると、彼は障子を開けるや、出会い頭に「郵政民営化のチャンスだ。必ずやる」と私に向かって宣言した。そのときの用件は私に私的懇談会をつくるので座長役を頼むということであったが、会談の大半は彼の郵政民営化に関する一方的な演説であった。私は彼のその熱意に驚くばかりだった。

 あの時点での郵政民営化実現の政治的可能性を考えると、今回の脱原発よりもはるかに困難であったと私は思っている。

 当時は小泉氏には大きな実績がなかった。それに世論が郵政民営化の必要性を理解することはきわめて難しかった。加えて、当時は、既に「郵政公社」への移行で政治的合意が成立していて、誰が見ても一件落着。それに賛同しない人は小泉氏ただ1人といってもよい状況。文字通りの孤軍奮闘であった。

 結果は周知の通り、彼は初志を貫き、まっしぐらに突進して5年後に公約を実現してしまった。

 今回の発言で小泉氏らしいのは「政府・自民党が打ち出せば」というところ。彼は「脱原発勢力をまとめて」とは言っていない。郵政民営化のときと同じように世論の圧倒的な支持を得て、直接自民党や政府の方針そのものを変える正面突破の戦略に立っている。

 郵政民営化のとき、彼は「抵抗勢力を協力勢力に変える」と言ったことがある。今回もまたそう考えているのだろう。脱原発に最後まで抵抗する自民党政治家はほんの一握り。政府・自民党が明確な方針を打ち出せばほとんどそれで決着と小泉氏は考えているに違いない。その通りである。

 安倍首相とて例外ではない。彼は自民党内でいわゆる原子力ムラと強いしがらみを持たない政治家。それに独特の無鉄砲さも持ち合わせている。また、オリンピック招致の演説で「汚染水の影響はコントロールできている」と断言してしまった、重大な責任もある。ここで首相が君子豹変すれば、内外から大きな拍手で迎えられ、歴史的事業を果たすことができる。

小泉元首相が本気になれば
「脱原発」が豪流になる

 小泉氏がフィンランド視察後に、脱原発に積極的になった理由は、「核のゴミを処分する場所の当てもないのに原発を進めていくほうが、よほど無責任ではないか」という発言に尽きている。

 かつて、日本で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士は、日本での原発建造が具体的な日程となったとき原子力委員を辞任した。そのとき博士は、「まず最終処理の態勢を備えなければいけない」という趣旨の抗議の発言をした。

 ゴミ箱もないのにゴミを量産する。しかもそれは半永久的にこの上なく有害なゴミだ。そして、そのゴミ箱を用意することはほとんど不可能なまでに困難を極める。最終処理の問題だけ考えても、われわれには今後原発を続ける選択肢はない。

 この講演で小泉氏は、一昨年の野田佳彦首相による「原発事故収束宣言」を痛烈に批判している。「事故を起こした原子炉内部の状況がわかっていないのに」なぜ収束宣言を出したのか、と。ときの首相が発言すれば、多くの人がそれを信じるのは当然。原発事故への関心が急速に薄れても不思議ではない。結果的に事故は今もって収束したとは言えない状況だ。

 小泉元首相は、政治的直感によって一気に動き出す人。彼が本気であれば、脱原発の流れは遠からず豪流と化すに違いない。

[DIAMOND online]

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Posted by nob : 2013年10月19日 15:25